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75✦☾宝庫資料管理室

資料管理室……というと、なんとなく大学の資料室みたいなものを想定していたのだけれど、それよりずっと広く、天井も高い。

石造りの空間は、控えめな内装ながらも洗練されている。


天井には、月と――おそらくは円環を象った螺旋の意匠が彫り込まれている。

光を受けて浮かび上がるその模様は、輪廻転生だけではなく、記録が積み重なっていく様子を象徴しているように見えた。


やはりここは“王宮の一部”なのだ──


並んだ書物にどこかわくわくしながら、私は目録の棚に取り掛かる。


アデリーナ様に申し上げたことは嘘ではない。……長い歴史を持つはずの資料管理室で、本がどのように保管されているのかもしっかり学びたかった。


私は清掃の合間を縫うようにして、目録の棚に目を通していた。

埃を払うふりをしながら、背表紙の番号、年代、保管区分を一つずつ照らし合わせていく。


(なるほど、配置場所も工夫されているのね)


ただ棚に並べられているわけではない。目録も長年にわたって更新されてきた結果、年代によって使われた素材が異なる。

湿気に弱い古文書は、内壁から距離を取った棚に。顔料を多く使った記録は、通気のよい位置に。


……そして木箱や石箱に収められた物も。これは特に重要な資料だろうか。──その中に必ず「何か」が仕込まれている。


「……これは」


袋に詰められた白く軽い粒状のもの――ゼオライトだ。

火山由来で、湿気や匂いを吸う性質を持つ。前世でも除湿や脱臭に使われていた鉱物だ。

その隣には、粉状でやや黄味がかったものがある。


(こっちは珪藻土ね)


微細な孔があって、湿度を穏やかに調整できる。


「ゼオライトに珪藻土も併用しているのね……。これはそのまま参考にできるわ!」


そして炭も使われているようだった。こちらは脱臭剤なのだろうか。


セラヴェル家では、少なくとも私が勤めるようになってからはそういった工夫は為されていなかったと思う。以前から少々気になっていたのだ。


(この間エリヤ様に連れていっていただいた火山帯ならゼオライトは採取できるでしょう。珪藻土はどこで手に入るのかしら……)


「あの、この袋も取り換えるのですわよね」


さきほどの女性使用人──お名前はマーサさんとおっしゃるらしい──に確認する。


「ああ、乾燥石ね。時間がたつと湿気を吸わなくなるから取り換えなきゃね。出しておいて」

「はい!」


ゼオライトや珪藻土の袋を取り出していく。……そこで私は妙なことに気が付いた。

いくつかの袋内のゼオライトが、黄褐色に変色しているようなのだ。ゼオライトは本来白に近い色をしている。


(ゼオライトって、湿気を吸うだけでこんなに変色するかしら……?)


ゼオライトは湿気だけでなく匂いや気体も吸う。前世ではアンモニアや硫化水素を吸着するために使われていた。


(揮発性の金属化合物などを吸着したら別かもしれないけど……、本だと顔料やインクに、銅や硫黄が含まれていたら、あるいは)


ふと、私はこれを利用させてもらおう!と思いつく。


──そう、ヨナ様をお呼びし、中身を確認いただく理由だ!


私は使用人のマーサさんに、なるべくさりげなく声をかけた。


「こちら変色が激しすぎます。本に異常が起きている可能性もありますので、念のため学術者様に中身を確認いただいた方がよろしいかと……皆さまお忙しそうですから、私が行ってまいりますわ」

「ああ、助かりますわ!お願いします!」


皆の采配や確認に忙しそうなマーサさんは、こちらを見ることもなく返事をする。


(よし、これで資料室内の第一関門は突破だわ!)


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


ヨナ様には事前に、特に”星々の標盤”という秘宝についての詳細を知りたいと告げておいた。

とはいえ、この膨大な目録をすべて確認することは難しいだろう──と思っていたのだが。


「ああ……これは、一応他の本も調べておいた方が良いです!自分が全部やりますので!」


そう言って、ためらいもなく目録を抱え込むヨナ様の様子に、思わず目を見張る。

私の言葉の裏を察してくださったのか、それとも学術者としての純粋な探究心もあるのかしら。

いずれにせよ、完全に腰を据えて調べてくださるようだった。


(ありがたいわ……!)


胸の内でそう呟きながら、私は表情を変えずに頷く。

そして、資料室の片隅で黙々と目録に目を走らせるヨナ様を視界の端に捉えつつ、ただの清掃係として、ひたすら資料室の手入れに勤めていた。


数日が経ったころ──。


「やあ、どーもどーも。頑張ってますナ」


突然、聞き覚えのある声と共に扉が開く。


(エ、エリヤ様……?)


エリヤ様がいつものようにゼーラ様を従えて、資料室に入ってこられたのだ。

私はどう反応して良いかわからず、他の使用人と同じく目礼するに留める。


(エリヤ様には、あくまでプライベートの“親友”としていろいろご厚意いただいているわけで、あまり王宮では関係性を他の方に見せない方が良いかしら……)


教会から私の装飾作りの活動を隠してもらっている……という手前、他の神官がうろうろしている中では、そうするべきなのだろう。

エリヤ様も、特に私を気に留めることも無い様子だ。


(最初にマーサさんが、学術師を呼んで……と言っていたけれど、その中にエリヤ様とゼーラ様も含まれていたのね。宝庫がらみのお仕事なら言ってくださったら良かったのに)


エリヤ様やゼーラ様、他にも何人か学術師らしき方や神官が、入れ替わり立ち替わり、宝庫と資料室を往復している。

おそらく、宝庫の中身と資料の照合や確認をしているのだろう。


(これは、後からエリヤ様のお話も伺った方が良さそうね。……何か聞けるかもしれないわ)


そんな事も考えつつひたすら働き──。

さらに数日が経ち、ようやく大掃除もひと段落着いた頃。


さすがに疲労の色をにじませつつ、ヨナ様は「星々の標盤」についてなんとかたどり着いてくださった。


しかし、その内容については、かなり想定外なものであった。




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