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72✦✦記録と記憶

シアナが去った後、教会ではゼーラが両手で頭を抱えたまま、小さくつぶやいた。


「“宝石”について調べたい、と来ましたよ……。直球すぎます」

「まあ……、前世の記憶があるなら、普通の話ではあるんですけどネ」


ようやく顔を上げると、ゼーラは今日何度目かしれないため息を吐く。


「この世界の、ある意味トラップですね。……“あってはならない物”であることを千年にわたり徹底した結果……、“あってはならない”ことすら忘れ去られ、禁忌である記録も一般には残らなかった……」

「それが教会の狙いだったのだから、仕方ないですヨ」

「“そうして円環を守ってきた”というのが奴らの言い分なのでしょうが」


ゼーラは、小さな教会の中に積み上げられた本の山を、ゆっくりと見渡した。


……どれも寄せ集めのように見えて、その実、長い時間をかけて集められてきたものだ。エリヤやゼーラ……あるいはその先駆者だった人間たちによって。


内容の多くは歴史に関わるものだった。

ただし、王宮図書館に並ぶ公的な記録とは違う。勝者の言葉でも、教会が定めた正史でもない。脇に追いやられた視点や、表に出なかった出来事を拾い集めたような本ばかりだった。


――教会の教えと明確に異なる書は、ここには置いていない。

だが、庶民の素朴な民話や、口伝を写しただけの伝承、世相を映した娯楽読み物、あるいは古い掲示物を束ねただけの冊子。そうした取るに足らないと思われがちな記録も、数が重なれば輪郭を持ち始める。


公式の歴史には残らなくとも、人々が何を恐れ、何を信じ、何を語り継いできたのかは、そこに滲んでいる。


この小さな教会に囚われている時間、二人はそういった膨大な資料を読みふけることが多かった。


「……しかし、それを調べる方法が“宝庫の文書資料を閲覧する”とは」

「大分飛躍してますナ。──宝石が存在しないことを告げても、依頼を撤回しなかったことを考えると、目的は別なのでしょう」

「宝庫……王家の秘宝といえば、スティラ嬢の中傷騒動を解決したのも秘宝でしたな」

「王族にバレたくないってことは、そのあたりの関係かもしれませんナ」


そこで、ゼーラは言葉を止めてエリヤを見た。……二人は貴族社会の監視者であるが、同時に王宮内にも目を配っている。

──当然、レオネルが懸念している最近の状況についても、ある程度は把握していた。


「──まァ、ボクらはシアナちゃんが暴走しなければとりあえずそれでヨシですよ」

「すでに暴走してる気がしますがね」

「要は“我ら”以外の神官にバレなきゃいいんですヨ」

「……シアナさんもあなたと同種の人間だということは、わかってきました」


そこで、ゼーラは声を潜めて、話題を変える。


「そういえば、ルチカ……という人物について多少、調べてみました」


ルチカ──それは、シアナが地震で気を失ったときに、突如として現れた少女の人格だ。

シアナの前世であっただろう人物……。本来は転生後、螺力を引き継ぎ、新しい人生を歩むはずだった彼女は、異世界より来た魂に転生も未来も奪われた形で、今もシアナの中で眠っている。

前世の辛い記憶を抱えたまま──。


「シアナちゃんは確か今年二十一歳になると言っていましたっけか」

「ええ……。ですから約二十一年前に亡くなった、当時十二歳くらいの少女を中心に。──しかし、残念ながらそれらしい少女は見つけられませんでした」


集めた資料を机の上に開きながら、ゼーラは一際小声でつぶやいた。


「もし彼女が……土属性だったならば」


本から顔を上げないまま、目だけをわずかにエリヤに向けた。


「──以前ルチカちゃんがシアナちゃんから“交代”した時の様子では、おそらく親元から離され教会に監禁されていた……、公的な記録には残っていないでしょうナ」

「ルチカ……、でも、どこかで聞いたことがあるような……」

「二十一年前なら、ゼーラは約五歳……、記憶に残っている可能性はありますナ」


その時、突然教会の扉が乱暴に開いた。


「また、くだらぬ書物で暇つぶしをしているのか」


横柄な口調で現れたのは、数人の王族付の神官たちだった。──王宮の中でも、王族については専門の神官が担当している。

とはいえ普段は、この教会にエリヤ達を放置したきり、自分達は王宮近くの立派な神殿に居座ったままだ。

……それがわざわざやって来るとは珍しい。


「閑職なのはわかるが……、教会に養われている以上、ある程度は働いてもらわねばならぬ」

「──オヤオヤ。こんなむさくるしい所にご足労いただくとは……、どういったご用件でショ?」


エリヤは面倒そうに振り向いた。


「そんなゴミのような本よりも、マシな暇つぶしを持ってきてやったのだ」


そう言い放つと、神官はにやりと笑った。


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