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58✦✦シアナも知らないシアナの秘密

(──地震!?)


そう思う間もなく……、ドンと下から突き上げるような衝撃に襲われ、シアナは意識を失った──。


その直後、足元がぐらりと揺さぶられ、溶岩トンネル全体が低くうめくように軋んだ。

続けざまに、岩壁が裂けるような凄まじい音が洞窟の奥まで響き渡り、赤黒い粉塵が風に巻かれて舞い上がる。


やがて振動がゆっくりと弱まり、崩れ落ちる砂礫(されき)のぱらぱらという音だけが残ると、洞窟はようやく静寂を取り戻した。


「……あいたたた、シアナちゃん、ゼーラ?無事ですか?」


エリヤはしこたまぶつけた腰をさすりながら立ち上がる。


「私は無事ですが……、シアナさん?大丈夫ですか?」


ゼーラも立ち上がり、横で倒れているシアナを覗き込む。


「……気を失っているだけのようです。ただ、……これは不味いことになりましたね」


深刻な表情でゼーラは洞窟の入り口を見つめる。

──洞窟の入り口は崩落し、完全に洞窟を埋めてしまっていた。


エリヤとゼーラは一通り洞窟の中を調べるも、入口にかけてかなり広範囲にわたって崩れてしまっている可能性が高い、ということがわかっただけだった。


「……出られるとしたら、横ではなくて上ですかね」


そう言いながら、ゼーラは洞窟の天井を見上げる。この洞窟は比較的浅い部分を通っており、外の高原には、天井が崩落したと思われるいくつもの穴が空いていた。


「しかし、この部分の天井はかなり強固な岩盤ですナ。だから崩落せずにすんだのでしょうが……。……ゼーラ、あなた“交代”できますか?」

「申し訳ないですが、“彼”の螺力では、さすがにここを突破するのは無理……というか、通常の螺力では無理ですよ」

「ボクの方も、これはちょっと厳しいかナ……」

「ん……」


二人が考えを巡らせていると、シアナがかすかにみじろぎした。


「……シアナちゃん?気が付きましたか?」

「………」


シアナはぼんやりと目を開けたものの、状況を把握していないのかぼんやりしている。


「大丈夫ですか?頭を打ちましたか?」


ゼーラがそう言いながら顔を覗き込むと、突如シアナは両手で思いっきりゼーラを突き飛ばした。


「シ、シアナさん?」

「……や、やだ……!!」


シアナは怯え、慌ててゼーラやエリヤから逃げようとするも、どこにも逃げ場ないことに気が付き、頭を抱えて震え出した。


「やだ……、やだ!!」


明らかに普通ではないシアナの様子に、ゼーラは思わずエリヤを振り向いた。


「エリヤ様、これは……」

「シアナちゃん……?」


エリヤは一瞬目を見開くが、すぐに事態を把握したかのようにシアナに駆け寄ると、かがみ込んで優しく言葉をかける。


「……大丈夫ですヨ。ここには怖い大人はいません。あなたに痛いことをする人もいませんヨ」

「やだ……、助けて、やだ、ここから出して!出して!出してぇぇぇぇ!!!!」


頭を抱えたままシアナが絶叫すると共に──、突如、()ぜるような轟音がトンネル全体を揺さぶった。


瞬間、天井の岩盤が内側から蹴り上げられたかのように裂け、粉塵をまき散らしながら上方へ吹き飛ぶ。続いて、巨石が軋む低い悲鳴とともに、天井が大きく口を開けて崩れ落ちた。


「——ッ!」


ゼーラが、反射的にエリヤとシアナへ身を投げた。

二人を覆い隠すように抱きかかえ、地面へ押し伏せた直後、砕けた岩塊が雨のように叩きつけ、鋭い石片が背中をかすめ、砂混じりの風がトンネル内に流れ込む。


……ようやく落石の気配が弱まり、舞い上がった粉塵が静かに降り積もりはじめたころ、ゼーラは息をつき、身体の下に抱えたエリヤへ声をかけた。


「エリヤ様、ご無事ですか!?シアナさんは!?」

「ありがとうネ、ゼーラ。なんとかかんとか……。シアナちゃんも……」


エリヤもまた、身体の下に庇っていたシアナを気遣ったが、シアナは何が起きたのかも理解できない様子で、ただ震えている。


「怖いよう、助けて、パパ、ママ……!!」

「……とりあえず、ここからは移動しましょう。余震が来るかもしれませんし、危険ですからネ」


天井部が完全に崩れ、三人がいる場所は高原に空いた巨大な穴と化していた。

割れた岩盤や崩れた岩を足場に、何とか外に脱出する。


「……この岩盤が割れるなんて……。あれは余震、ではないですよね」

「──シアナちゃん、いや……()()()の螺力と考えていいでしょう」


まだまともに話せる様子のないシアナを、どうにか安全な場所に誘導しつつ、ゼーラは、脱出してきた穴を振り返り、呟いた。


「……凄まじすぎる……」 


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


エリヤたちは、ようやく馬車をつないだ場所まで戻ってきた。


「……さて」


馬車の中にシアナを座らせると、エリヤはそっとその足元に跪く。

まだすすり泣いてはいるが、さきほどからは大分落ち着いたようだ。


()()()()()初めまして、ですネ?……お名前は?」


そう尋ねると、しゃっくり上げながらも、シアナは顔をゆっくり上げる。


「……ル、ルチカ」

「お年はいくつかな?」

「十二歳、くらい……」


ゼーラが一瞬憤ったかのように表情を険しくした。

──この子は、おそらくその年齢で人生を終えたのだ。


「ルチカちゃんネ。ボクはエリヤ、こっちのおじさんはゼーラといいます。よろしくネ」

「おじさんて。私まだ二十六歳です」

「十二歳からしたら立派におじさんですヨ。ボクは十代だからお兄さん枠ですけどネ」

「……中身はおじいちゃんのくせ……」

「何か言いましたかナ???」

「いえ?……そんなことより」


ゼーラは、不思議そうな表情で呆然としているシアナ……いや、ルチカを見つめる。


「エリヤ様……、この子は」

「ええ……。本来、シアナちゃんの身体で転生するはずだった魂でしょうナ。──今世では、異環から転生した魂に身体を奪われ、通常の転生がかなわなかった……」

「やはり、シアナさんの中で眠っていたのですね……」


ルチカはおずおずと唇を開いた。


「おじさんたち……怖い人じゃないの?」

「ほらエリヤ様、我々仲良くおじさん枠ですよ」

「うるさいですネ……あ、ルチカちゃんのことじゃないですヨ。ここには怖い人はいません。安心してくださいナ」

「ほ、ほんとに……?痛いこと、しない?」

「しませんよ」


痛ましそうにゼーラはルチカの前にかがみ込む。


「ルチカちゃんは……、土属性、ですね?」

「……つ、つち……?……ちが、ちがう」


ルチカはその言葉にはっきりと青ざめる。


「違う……!土属性なんかじゃない!違うから……!やめて!痛いのしないで!!」


再び取り乱し、頭を大きく横に振るシアナを、エリヤは慌てて宥めようとしたが、ルチカは狂ったように“やめて”と叫びながら──やがて、気を失ってしまった。


「……ゼーラ。いきなり切り込みすぎです」

「すみません……、こんな少女がと思うと、つい焦ってしまいました」

「気持ちはわからないでもないです。……可哀そうに、どんな辛い境遇だったんでショ……、ルチカちゃんは」

「──今は、シアナさんの魂に守られているのでしょう」


エリヤは、暴れて乱れたシアナの髪をとき、涙と泥で汚れた顔をぬぐうと、小さくため息をついた。


「……セラヴェル家に送りまショ。多分、しばらくは疲労で動けないはずですヨ。螺力に慣れていない体で、あんな凄まじい力を使ったのでは」

「シアナさんは、ルチカちゃんの存在に気が付いているのでしょうか?」

「気が付いていたら、嬉々としてミネラロイドの装飾品なんて作りませんヨ」

「……確かに」


ふと、エリヤはしっかり持ち帰ってきた袋に気が付く。……採取した黒曜石も入っていた。


「結果的に、命がけの戦利品となりましたナ」


そう苦笑まじりに呟いて、気を失ったままのシアナの手に、そっと袋の紐をかけた。


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