51✦☾輝かせ隊のスカウトイベント
翌日、テスタ達は自分達の家に帰ると言った。
ココを取り戻した以上、もうセラヴェル家にいる理由はない。
しかし……、私は彼らを少し引き留めて、屋根裏部屋で待ってもらうことにした。
──お茶会準備を経て、考えていたことがあるのだ。
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「あの子たちをセラヴェル家で雇う……ですか?」
私はまず、エヴァルス様とアデリーナ様に相談をした。
「はい。……今のままでは装飾作りの人手が足りず、他の使用人の皆さまに大きな負担をかけております」
これは前々からの課題だ。いくらセズネイ様の許可があっても、いつまでも甘えるわけにいかない。
「それに、お嬢様付きメイドに野外での素材集めやガラス研磨ばかりやらせるわけにいきません」
上位貴族のメイドに奉公に出るのは、お給金のためだけではなく、貴族社会の作法を学ぶためでもある。泥まみれになって石集めをしたり、何時間もガラスを磨き続ける……なんて、想定外すぎるだろう。
前世でもあったなぁ……。募集内容と実際の業務内容が違うケース。
若い女と見ると雑用係だと思い込む人もたまにいて。私はあくまで研究員として雇われたのに「そこの女の子!お茶!」とか言われて……。
「お嬢様以外の人間からお茶を命令される筋合いはないわよ!……と、し、失礼いたしました」
……声に出てた。
エヴァルス様とアデリーナ様は一瞬驚いたが、さすがお二人とも私の扱いには慣れていて、すぐに元の表情に戻る。
「しかし、ろくな教育も受けていない子どもたちでは……」
「あの子たちは下手な大人より賢く器用ですわ。お茶会を手伝ってもらってよくわかりました。……何より装飾制作は屋敷外に広められませんゆえ、外部の労働者を雇うのは憚られます」
「ああ……、お嬢様も独占したがっておりますしな」
──“神官の目に触れさせるな”という忠告をエリヤ様から受けたことは……言わない方が良いだろう。
素人お手製の装飾品など、教会が問題にするとは思えないが、教会所属の学術者自ら忠告にきたと知れば、下手すれば装飾作りを禁じられてしまうかもしれない。
(せっかくここまでは成功しているし……、これからだってお嬢様には常に“主役”でいてもらわなければならないもの!)
その点、あの子たちは教会や神官を毛嫌いしている。……うかつに接触したり情報を渡してしまう可能性は低い。
「……シアナ。身寄りのない子ども達を引き取る、という意味は理解していますか?野良猫に一時的に餌をやって終わり、という話ではないのですよ」
アデリーナ様がモノクルを光らせる。
「はい。教育と職業訓練をなし、いずれ独り立ちできるようにと考えております」
私ははっきりと答えた。……これは、生半可なことではない。
あの子たちにいずれ、自力で生活できる能力をつけさせる……。六人もの人生に係わる大仕事だわ。
できないなら、最初からやるべきじゃない──、でも。
「アデリーナ様をはじめ、──このお屋敷の方々が私にしてくださったことを、私も社会に返したいのですわ」
それが私にできる数少ない恩返しの一つだと思うからだ。
アデリーナ様は無表情なまま、かすかに頷いた。
「あなたにその覚悟があり、子どもたちが、それを受け入れるならば……、私たちからセズネイ様とセラヴェル伯にはお話しいたしましょう」
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屋根裏部屋で子ども達にも説明した。
もちろん、子ども達はあからさまに警戒と猜疑心をにじませた。
賢い子ども達……それゆえに、簡単に承諾はしてくれない。
「つまり、衣食住とある程度の給金と引き換えに、一日の大半を拘束され、命令に従って生活しろってことだよな?……それも何年も」
イオは腕を組んだままそうつぶやいた。
「さすが、理解が早いわね。……命令といっても、無茶なことを言う気はないわ。午前中は本での勉強、午後は野や川での石の採取や裁縫、お屋敷の修繕や庭仕事なんかを中心にやってもらうつもり」
装飾作りの技術を身に着けたところで、この世界では身を立てられない……大っぴらにはできない技術なのだから。
だから、子ども達には適性に応じ、庭師見習いや仕立て師、メイド業なども身に着けてもらうつもりだ。
「べんきょう……」
メセナとヤーナの二人は、不安そうに顔を見合わせる。
「イオは、勉強したことがあるんじゃない?」
この子は理解力も語彙力も高い。おそらく学校で学んだ経験がある。
「親が生きてた頃はね。……勉強は、確かにしておいた方がいい。読み書きや計算ができなければ、いいように騙される」
「そのとおりよ。今回のこともだけど……子どもだけで教育も受けずに生きていくのは、あまりに危険だわ」
イオとテスタはかすかに目を合わせると、じっと考え込む。
この子たちなら……、屋敷で教育を受けながら職業訓練をできることのメリットを、必ず理解できるはずだわ。
メセナとヤーナは、ほぼ同時に顔を上げる。
「ずっと、今と同じようなごはんを食べられるの?」
「ええ。食事や服、お部屋は今と同じように用意するわ」
「……教会に僕たちを突き出したりは」
「しない。このお屋敷に神官はいないでしょう?……私もお嬢様も、お屋敷の偉い人たちも、教会や神官があまり好きじゃないの」
これは本当のこと……。以前立ち聞きしてしまった時にはっきりしたが、お嬢様の螺力制御の秘密のせいか、お屋敷全体で教会の介入を極力避けている。私やこの子たちのような人間には助かる環境だ。
「もし、どうしても辞めたい、となったら元の生活に戻るのは自由よ。……ただ、できれば一年は我慢してほしい。慣れない生活は最初は辛いけれど、良い結果になることもあるから」
「あんたがそうだったの?」
「ええ!」
レザの質問に笑顔で答える。
「私なんて、この屋敷に来たころは、服は着られないし髪は結えないし壁はよじ登るし、パンの大皿は独り占めして毎日のように怒鳴られてたけど、一年たったころには大分慣れたわよ!」
「……あたしら、そこまで酷くないよ」
自分より十も下の女の子に呆れられるのは、なかなか無い経験ね……!
「……いじわる、されない?」
ココが小さな声で尋ねる。
「もしいじわるされたら、私に言い付けて!怒ってあげる!」
じっと聞いていたテスタは、私を見つめる。
「……今晩だけ、皆で考えさせて。返事は明日したい」
「ええ。大事なことだから、ゆっくり考えて」
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「はぁ?正気ですか、メイド長!」
食いつくように叫んだのはチェスカだ。
「リルネの恩もあるし、誘拐のことについては、まあ……と思いましたけど、雇うなんて……!」
メイドチームとお嬢様への報告は最後になってしまった。思ったとおりチェスカは拒否反応が出てしまうようだ。
「あの子たちが信頼できるのはわかったでしょう?ちゃんと教育を受ければ大丈夫よ。それに、川で石拾いをしたり、ガラス片をドレスにひたすら縫い付けるのは私たちだけではもう無理よ」
これにはメイド達一同賛成らしく、皆うんうんと頷いている。それなりに装飾作りを楽しんではくれているものの……、無理が積もっているのは実感しているのだ。
チェスカもそこは理解できるようだけれど……。
「それはそう、ですけれど、でも浮浪児ですよ!?育ちがあれじゃあ」
「あーーーもう!!そんなこと、どうだっていいわ!!」
それまで黙って聞いていたお嬢様が、そう叫んで立ち上がった。
今日も金色のたてロールが見事にきらめいている。
「さっきから聞いていれば……。あなた方、一番大切なことは何かわかっていて?」
腕を組み、その蒼紺の瞳で冷たく私たちを見下す。この眼つきがたまらない……!じゃなくて。
私はじっと考えた。人を雇ううえで大切なこと、それは……。
「出自や育ちを重視するのではなく……その人となりや適性を、」
「わたくしのドレスよ!!」
───へっ?
「わたくしのドレス装飾!!それが何より大切じゃないの!?装飾作りにその子たちが必要なら、雇う以外の答えはないわよ!」
「た、確かにそうでございますが……」
(ま、間違ってはいない、いないけれど……!ちょっといい事とか言うシーンじゃないんですか、ここは……!)
皆も、なんと反応して良いのかわからず沈黙し、チェスカも、反論する気力も失ったようだ……。
「シアナ!」
お嬢様はさらに、私をぎっと睨みつけた。
「どんな石でも、磨いたら光るんでしょう?」
「え?ええ……はい……」
「舞踏会があと何回あるとお思い?何着のドレスや装飾が必要だと思っているの!?使えそうな石ころは全部磨きなさい!!」
私ははっと顔を上げる。
そう、あの子たちは原石……!磨けばきっと光ってくれる。
「はい!!必ず!」
私は今度こそ、力強く答えた。
その翌日、テスタからは無事に承諾の返事を得た。
(──スカウトイベント、成功だわ!)
「これで、あなた達も今日から『お嬢様輝かせ隊』よ!」
「おじょうさまかがやか……?何だって?」
テスタとイオが露骨に怪訝な表情をする。
「“スティラ☆彡ラブ♡”のユニフォームも追加注文しなきゃね!」
「意味がわからない……やっぱり、今からでも辞めた方が……」
レザは不安そうにしているが、私はやる気に満ちていた。
人手さえ増えれば、作ってみたかった装飾はたくさんあるのだ!
(でも……とりあえず、一番に作らないといけないのは“あれ”かしら?)




