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48✦☾噂の迷宮

私の深刻そうな表情と言葉に、来客たちが注目する。


「万が一……、お手元のチャームが壊れていたりヒビが入っていたら……、わたくしにだけ、そっと教えてくださいませ。お茶会の後でもかまいません」

「けっして不良品を御配りしたわけではございませんのよ!……おまじないチャームは、災いを予知すると壊れてしまいますの」


お嬢様が私の説明を引き継ぎ、大げさな手振りで告げた。ざわめきが不安そうな響きに代わり、数人の令嬢がそっと自分のチャームを確認している。……トルドー家の奥方の顔色は、いっそう青ざめていた。


「でも、このシアナにこっそり相談いただければ、災いをはねかえす特別なチャームをご用意いたしましてよ!……あ、壊れていない方はダメですわよ?」


お嬢様のノリノリの説明に、客席からは安堵の笑いが起きる。


「あの女だ!」


お茶会の端で、使用人の子のふりをして参列していたレザが小さく叫んで指したのは……、トルドー婦人の隣にいるメイドの女性だった。


「あの女が、ココと一緒に馬車に乗ってたんだよ。あたし、目はいいんだ!」

「わかったわ。でも今は抑えて。ちゃんと後であの屋敷に入れる算段はつけるから」

「……わかった……」


ぎゅっと唇を噛んでレザはスカートを握りしめた。


「さあ!それでは皆様、本日はどうかセラヴェル家のパティシエ自慢のお菓子とお茶で、楽しい時間を!」


お嬢様の掛け声とともに、テラスで小さな楽団が演奏を始め、お茶会が開始された。

庭の一角に用意されたテーブルには、色とりどりのお菓子や軽食が並び、各家のメイド達や、奥方や令嬢達自らも、楽し気に選んでいる。


トルドー家への種は撒いた。後からこちらからも接近してみよう。

そしてユーテリア様のお噂についても、メイド達から何か聞ければ……。

そのための準備もちゃんとしてあるのだ。


「実はメイド様方へも、おまじないチャームはご用意しております!お近くのセラヴェル家メイドにお声がけくださいませ!」


そう声をかけると、メイド達の顔もぱっと輝く。私たちはポケットに忍ばせた簡易包装のチャームを、やってくるメイド達に渡しつつ、ここぞとばかりに雑談に花を咲かせる。


「良かった、壊れていないわ。災いなんて恐ろしいですもの」


チャームを確認して微笑むメイドに、そっとささやく。


「最近は王宮でも、恐ろしいことがございましたしね」

「……アシュレーン家のお嬢様ですわよね、あのようなお美しい方が……今でも信じられませんわ」


元々、メイドやご婦人方はこの手の噂話は大好物のはずなのだ。

──少しきっかけさえ作ってあげれば、いくらでも聞き出すことはできる。


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


「……では、スティラお嬢様のお噂はやはりユーテリア様から」

「でも、ユーテリア様もさる高貴なお方からお聞きになったらしいですわ」


来客のお世話はうちのメイドが積極的にやるようにして、来客付のメイド達にはなるべく雑談に時間を割いてもらう計画だ。


「アシュレーン家より高貴というと……王族か、教会……」

「……まさか、そのような……。どうせそれも嘘でしたのよ」


本日は、アシュレーン家はお招きしていない……、さすがにあの件の直後である。こちらがお招きしてもかえって関係を悪化させるだけだ。


(本当はめちゃくちゃお話をお聞きしたかったけれどね!)


「……屋敷で謹慎なさっているユーテリア様にはどのような罰がくだるのでしょう……」


雑談していたメイドの一人がほうっとため息をつく。この方は確かトルドー家の……。


「ユーテリア様は、アンリーク王子と幼馴染で、陛下の五番目の弟君であるヨルテル様には妹のように可愛がっていただいたと……。重い罰にはならないことを祈っておりますわ……」


(ヨルテル様──、確かに王族にいらっしゃったわ)


私が新しく出た名前を脳内でチェックしていると、はっとメイドは口を押えた。


「も、申し訳ございません!スティラ様を侮辱した方なのに……、つい、お茶会で何度も顔を合わせ、メイドの私にすら良くしていただいたものですから、庇うような発言を……!」

「あぁら!わたくし、これっぽっちも気にしてなくってよ?」


自分の名前が聞こえたのか、お嬢様が突如割り込んできた。


「嫉妬されるのは美しく生まれた者の宿命ですわ!相手が優れた方であるほど、わたくしが上位にあることが証明されるようなもの!いっくらでもお話なさって?」


世界の中心のごとくオホホ笑いしているお嬢様を後目に、私はそっとメイドに畳みかける。


「……正直、私もユーテリア様がそんなことをする方とは思えず……。ヨルテル様の他にも彼女の味方になるような親しいお方がいればよいのですが」

「そ、そうですわね……。ヨルテル様もメイリア様も……。レナウェア様だって、ユーテリア様とは家族のように仲が良かったはずですもの、きっと力添えくださいますわ」


(メイリア様……ヨルテル様の奥方ね。……レナウェア様……?そのような方がいたかしら……)


アデリーナ様の教育のおかげで、そのあたりの人間関係はだいたい頭に入っている。ただ細かい交友関係までは追えなかった──やはり、メイド達の話は重宝するわ。


(でも、ユーテリア様がおっしゃる高貴な方──中傷の真犯人とはやはり……)


前々からうっすら感じていたことではある。あまりに恐れ多くて、言葉にはできないでいたけれど。


(──”王族”……なのでは……)


アシュレーン環伯やその親族、または教会の上位神官……という可能性もまだ捨てられないが、私はユーテリア様を真犯人だと断定したのが”王族の秘宝”だということも気になっていた。


(しかし王族が、なぜ……?)


王族なら、中傷をばらまくなんて方法を使わなくても、お嬢様を社交界から外すことはできたはずだし、結果からすると、最初からユーテリア様が標的だった可能性もあるけれど……。


(それだと、ますます動機がわからなくなってくる……。王族がユーテリア様に冤罪をかける必要が、どこに……?)


「あの……、ところでシアナ様」


つい考えこんでいると、小声でそっと後ろから声をかけられる。

さきほどのトルドー家のメイドだ。……後ろには不安そうな表情の奥方様。


(──来た!)


──ユーテリア様のことも気になるが、今はこっち──ココの捜索の方が緊急だ。


「……どうかなさいましたか?何でもお申しつけくださいませ」


私は穏やかな笑顔で振りむいた。


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


「まあ……確かに、割れてしまっていますわね……」


トルドー婦人の装飾ガラスは、大きなヒビが入り、欠けていた。

……もちろん、わざとである。


「災いなんて、まさか……作り話でございますわよね……?」

「不安にさせて申し訳ございません。ただ……その、最近お屋敷で変わったことはございませんか?いつもと違うことや、珍しい客人や……、」


私はそこで、そっと耳元でささやいた。


「大変恐れながら……円環の(ことわり)(さわ)るようなことなど……」


トルドー婦人ははっと口元を両手で覆う。その手から、チャームが零れ落ちた。


「……そ、そのような……、そのようなこと……。わたくしは、ただ……」

「まあ、眩暈(めまい)ですか?大変ですわ、こちらにお掛けくださいませ」


私はわざと大きめの声で言うと、トルドー婦人を椅子に座らせてささやく。


「落ち着いてくださいませ。ここでは皆さまの目につきますわ」

「災いを……はねかえすチャームというのは、本当にいただけますの……?」

「ええ。ご安心を……よろしければ明日にもお屋敷にお伺いして、まじないの用意をいたしますわ」


トルドー婦人は震えながら、壊れたチャームをただ握りしめた。


「ぜひ……お願いいたしますわ……」


(……これで、トルドー家を正式に訪問する理由はできたわ!)


レザの証言もあり、婦人の様子からも、間違いなく心当たりもありそうだ。

──それに、事前に調べてわかっていることもある。


(ココ、もうすぐ助けてあげるからね……!)


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