47✦☾セラヴェル家大お茶会プロジェクト
セラヴェル家が総力を挙げた結果──ついに迎えたお茶会の朝は、雲ひとつない青空が庭の緑を照らしていた。
天も味方してくれたらしい。予定どおりのガーデンパーティが開幕する。
ココのことを考えると、準備期間は極力短くするしかなかったが、それを感じさせない仕上がりだ。
優秀な庭師たちが丹念に仕上げた庭園は、まさにお嬢様の晴れ舞台にふさわしい。
柔らかな陽光に照らされた芝生の上には、白と淡い水色のクロスをかけた丸テーブルが等間隔に並び、小さな花束が楚々と色を添えている。
今回は、思いきってビュッフェ形式を採用し、メイドも連れてくるよう招待状に書いておいた。
(全員が着席したまま動かないようなお茶会じゃ情報はとれない──メイド達は奥方や令嬢よりだんぜん噂話に乗ってくれやすいから、彼女たちと話しやすい場にしなきゃ)
──そして。
テーブルには来客の数だけ、『小さなお土産』を用意した。
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やがて、名家の奥方や令嬢たちが連れのメイドを従えて、次々と庭へと姿を現し始める。
なんといっても、最上位貴族セラヴェル家の本当に久々のお茶会……かつ、一人娘スティラお嬢様の社交界デビュー記念である。
少々急な誘いではあったが、ほとんどの招待客が出席となった。
彩り豊かなドレス、ひらめくリボンにフリル、香水の香り──視界も空気も、一気に華やぎが増す。
肝心のトルドー家も……、ちゃんと奥方らしきご婦人がメイドを数人連れてやってきている。よし!
全員が着席し、セラヴェル伯とお嬢様のご挨拶が始まる。
「お嬢様!!本日のビジュも最高でございます!!花の妖精も尻尾撒いて逃げ出す美しさ!!妖精って尻尾あったかしら!?」
……と、叫びながら五体投地を繰り返したいのを、必死で我慢したくなる本日の主役──、スティラお嬢様!
今日のドレスは、淡い薔薇色をベースに、ガラス片をグラデーションに見えるように一つ一つ微妙に違う色を付け、花の形になるようにドレスに縫い付けたものだ。
手作業なので大変だったけれど、子ども達が手伝ってくれた。──特にレザとヤーナは裁縫が得意で、かなり活躍してくれた。
舞踏会ほど派手ではない……、ぱっと見は普通のドレスだが、ガーデンでは陽光にきらめき、一気に華やかになる。
「まあ……!なんて素敵……」
「あの光る装飾……、今日のは美しい彩に満ちていますのね」
──エリヤ様は舞踏会のドレスは事前相談しろって言ってたけれど、今日は屋敷内だからセーフよね!
お嬢様のご挨拶もアデリーナ様の猛特訓あって、なんとか無事終わった後……、私から「お土産」について説明をさせていただいた。
「皆さまのお席には、封蝋のなされた小さな封筒が置かれているかと思います──それはお越しくださった皆様への、ささやかな贈り物でございます。……ああ、そこの御令嬢、開けるときはご注意を!」
封筒を手にとる客に、おおげさに声をかける。
「──けっして、人に見られませんように……!ええ、ご家族やメイド様たちにすら……」
怪訝そうな表情に、私は意味ありげに微笑んだ。
お嬢様が隣で、高らかに宣言する。
「それは、古くよりセラヴェル家に伝わる──願いの叶う“おまじないチャーム”ですわ!」
「おまじないチャーム?」
「願いが叶う……」
令嬢達がざわめいた。
「中には小さな装飾品が入っております……、人に見せないように、そっと心の中でお願いごとを唱えながら、その装飾を撫でてくださいませ……」
私はテーブルの間を歩きまわりながら、大げさな身振り手振りを加えて、芝居がかった説明を続ける。気分は大手テーマパークの添乗員だ。
「チャームはとても恥ずかしがり屋なので、人に見られたらたちまち力を失ってしまいますの……。このように肌身離さず身に着けるのですわ!」
お嬢様がそうおっしゃいながら、ネックレスにして胸元に入れているチャームのチェーンに手をかける。
(ま、まさか胸元からチャームを引きずりだそうと……!?)
「お嬢様ァァァァ!!??」
セクシーが過ぎますわ!!!……と、慌ててお嬢様の胸元を隠そうとする……が。
「──もちろん、わたくしの物も皆様には見せられなくてよ?願いが叶わなくなったら困りますもの!」
……と、お嬢様はチェーンにかけた指をぱっと離し、ひらひらと振る。周囲からはどっと笑い声が上がる。
──なんとかスライディング寸前のポーズで停止できた私を、ソリーナが怪訝そうに覗き込んだ。
「メイド長?さすがにお茶会で奴隷ポーズはちょっと……」
「──いえ、防衛動作が不発に終わっただけのポーズなので気にしないで……」
ラーサやリルネ、チェスカたちも、口々に「人にはお見せしないでくださいまし」「願いが叶うまでは肌身離さずに……」などと笑顔で声をかけつつ、テーブルを回っている。
「まあ!なんて可愛らしい……!」
「このような珍しい装飾品をいただくのは初めてですわ!」
令嬢達はもちろん、奥方たちも楽し気に瞳を輝かせ、いたずらっぽく顔を見合わせては、自分の封筒をこっそり覗き込み……、華やかな歓声を上げる。
「お母さま、覗き込まないでくださいまし!」
「ふふ、お父様にも内緒ね」
(いい感じよ!場もなごんでいるわ)
封筒の中には、小さなガラス片をあしらった可憐なチャームが入っている。
しかし、ガラス片の部分には綺麗なレースでスカートのような覆いがつけられているので簡単には見えない──そのうえで、”人に見せたら効果がなくなる”設定で、神官に見つかる可能性はぐっと低くなるはず!
(しかも、この設定なら「秘密」「願い」「隠し事」を話題にのぼらせやすくなるわ!)
“セラヴェル家に伝わる”云々は、ちょっとしたリップサービスだけれど、お嬢様もノリノリで楽しんでくださっているし……。
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「メイド長、成功ですね……!」
テトが嬉しそうに近づいてくる。
「ええ。いつの世もおまじないは乙女の心を惹きつけるものよ」
──実は、前世で推しのグッズにあったのよ!これとほぼ同じような物が……!!
前世の推しは若い女性ファンも多かった。きっとそういった層向けなのだろう。
確か、推しカラーごとに五種類くらいあって、しかもランダム商法なのよ!!運の悪さも相まって、推しカラーが出るまで二万円以上使ったわよ!?
「ランダム商法が許されるのは単価千円までだと思うわ!!」
「メイド長?な、何語ですか?」
「あ、失礼……」
私はちらりとトルドー家の方々の席を見る。
奥方様と、二名ほどのメイド……。
奥方様は、封筒の中を確認すると……、思ったとおり、明らかに怪訝な表情をされた。
さて、仕上げよ──!
「さて皆さま、このおまじないチャーム、もう一つだけ……、大切なことがございます」
私はおもむろに切り出した。




