46✦✦監視者の目論見
エリヤとゼーラは、セラヴェル邸を出たあと王都の大通りで別れた。
そのままエリヤは、城下町の路地を複雑に何度も折れ曲がり……とある小さな雑貨店に入ってゆく。
寡黙そうな店長は、エリヤの顔を見るとそっとカウンターの中から、奥の部屋に入っていった。
大きなクローゼットの鍵を開けると、着いてきたエリヤに目配せする。
クローゼットの中はそのまま通路につながっている。……その先にある地下の部屋には、他のルートから入ってきたゼーラが待っていた。
「どもども、さっきぶり」
笑顔で手を振るエリヤに、ゼーラは慎重に周囲を見回して、小声でつぶやいた。
「例のメイド長……あれは、確定ですね」
そしてふっと息をつく。
「──ガラスが鉱石ではないと常識のように言える、ミネラロイドなんて言葉、この世界では神官だってほぼ知らないのに、聞き返しもしなかった」
エリヤも、ゼーラと同じテーブルにつくと、行儀悪く頬杖をつき両足をぶらつかせる。
「ですナ。……シアナちゃんは間違いなく“異環”……異世界からの転生者でしょう。それも、ある程度以上の鉱石の知識がある──。どうやってセラヴェル家のメイド長におさまったのかはわかりませんが」
ゼーラは、書物の奥に隠された図表を引き出す。
──そこには二つの円環が重なった絵が描かれていた。
「異環……また、“日本”でしょうか」
エリヤは、その重なった部分を指し示した。
「今までの円環の摂理から考えると、そうでしょうナ」
「前世の文化圏が同じというのは、便利ではありますが、新鮮味には欠けますな」
「摂理に新鮮さを求めないでくださいヨ」
図表を元の場所に戻し、ゼーラはエリヤは指を口元にあてて考える。
「しかし、そうなると彼女に螺力があるというのはガセか間違いでしょうか?」
“駒”からの報告では、シアナは一度とはいえ、風属性の螺術を見せたらしい。しかし……。
「確かに、螺力は前世からの引継ぎ──異環……地球から転生した者は、引き継ぐ螺力を持ってませんからナ」
エリヤは、意味ありげににやりと笑った。
「……ただ、そこについては、“いろんな事例”がありますからネ」
そこで、エリヤは椅子の上で大きく伸びをする。
この“秘密の部屋”だけが、エリヤやゼーラが少し心を緩められる場所であった。
「何にせよ、ウチに欲しい人材ではあります。スカウトできないかナーー」
「舞踏会での様子を見る限り、あのお嬢様に異常──いや、非常な忠誠心を持っているようですから、難しいでしょう。貴族社会の中で働いてもらうという手もあります」
「様子を見ながら、こちらに取り込めそうなら機会を狙いまショ」
暗い部屋の中で、エリヤのごく淡い色の瞳に、燭台の炎がゆらめいて映る。
「あのお嬢サマの方も……少々気になりますしナ」
「もともと、あっちを見張らせるための駒でしたしね」
しばし二人は黙り込んだが、ゼーラはその紫の瞳をかすかに光らせ、一際低い声でつぶやいた。
「……これ以上、教会の非道をのさばらせておくことなどできない」
そうして、真剣な表情でエリヤを見つめた。
「──我ら“大地の環”に光を……、そのためなら、何でもしましょう」
黙ったまま、エリヤもわずかに瞳を細めた。




