第96話
ある程度落ち着きを取り戻した教皇パリオンは、ゆっくりと私から離れて涙を拭った。
「すまない……アウロラではないと分かっていても、感情を抑えきれなかった。」
「……仕方ないですよ。実は私も、教皇──」
「パリオン。」
「……パリオンにお願いがあります。」
「なんなりと。」
「私の精霊核がアウロラと融合してから、状態が少しおかしいんです。できることなら、私とアウロラを分離していただけませんか?」
「……私もそうしたいのですが、今の状態では……」
彼は額の包帯を解いた。
そこには本来生えていたはずの角の切断面だけが残っていた。
だが、今の私なら──
「つまり、角が元に戻れば可能性はあるってことですね?」
「たぶん……でも、どんな方法を試しても戻ったことはありませんでした。」
私は左手をパリオンの額に当て、万物修復を発動した。
「試してみましょう。」
真っ白な光が食堂を包み込む。
「こ、これは……?」
パリオンは驚いた様子だった。
そして、視界が一気に暗転し、意識を失った。
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目を覚ましたとき、そこには真っ白な空間だけが広がっていた。
「ここはどこだ?」
見覚えのある感覚。
ああ、ここは精神世界だ。
誰のものかはどうでもいい。
一ヶ月間いろいろあって、少し休みたい気分だった。
しばらくこのままでもいいかもしれない。
「そうはいかないよ!」
「……君、前は雰囲気作って私の体を奪おうとか言ってたけど、結局パリオンに会いたかっただけじゃないの?」
「それの何が悪いのよ!」
「外の状況は分かってるのか?」
「大体は……一応君にくっついてるからね。」
私は首を傾けて彼女を見た。
銀髪の精霊、アウロラ。
「最初からちゃんと事情を説明してくれてれば、無駄に殴り合う必要なんてなかったじゃないか。」
「他人の君に長話するのも面倒だったから、とりあえず体を奪おうと思っただけよ。」
「うわぁ……精霊ってなんでこう高貴ぶってるくせに我儘なんだ?」
彼女は返事代わりに私にドロップキックを放ってきた。
私は両腕でX字を作ってそれを防ぐ。
「これが返答かよ?」
「うるさいっ! 君の話し方がイラッとしただけよ!」
「わかった……なら別の話をしよう。」
彼女に会ったら必ず聞きたかったことがある。
きっと彼女にしか分からないはずだ。
「テンはどこにいる?」
テン──私の中で状態をチェックして成長を助けてくれる存在。
そのテンが突然沈黙したのは、明らかに私の中に異常があったからだろう。
だとすれば、原因は一人。
精霊アウロラ。
「……誰それ?」
「知らないなんて言わせないぞ……前に君もその声を聞いたはずだ。」
そう、かつて身体の主導権を争ったとき、アウロラは確かにテンの声を聞いていた。
「ああ、あの子のことね……テンって名前だったの。」
「どこにいるんだ!」
「その子なら、私とずっと話してたわよ?」
「は?」
アウロラは後頭部をかきながら気まずそうに笑った。
「久々に話しかけてもらえて楽しくなっちゃって、いろいろ話してたの。君は呼んでも返事ないし、その子はちゃんと反応してくれたから。」
「精霊ってどれだけ勝手なんだよ! 返せ!」
「もちろん返すわよ。私はもうここにいる必要ないから。」
「どういう意味だ?」
アウロラは右手を伸ばして私の頭に置いた。
さっきとは違う、真剣な雰囲気で。
「私は精霊アウロラ。再び伴侶に会わせてくれた感謝として、祝福を授けるわ。」
「……君。」
「彼があなたのおかげで力を取り戻したの。詳しい話は目が覚めてからにしましょ?」
精神世界がまばゆく光り出す。
私の意識がまた遠のいていく。
勝手に話が進むのはいいけど、巻き込まないでほしい。
起きたら絶対言ってやろう。
そして私は目を覚ました。
周囲を見渡すと、まるで戦場のような混乱だった。
フェレオラ邸はカルロスのとき以上に破壊されており、私は瓦礫の上でベトの姿のまま横たわっていた。
左を見ると、領主と角が元通りになったパリオン、そして教会関係者とアウロラがいた。
右を見ると、エルゼリア、ベルゲ、愉快な仲間たち、オデルリアがいた。
双方がボロボロの状態で睨み合っている。
何だこれは、勘弁してくれ。
『ご説明いたします、ノベト様』
『テンか! 久しぶりだな』
『はい、お久しぶりです。ノベト様が意識を失っている間、私が身体を制御しておりましたので、状況はすべて把握しております』
『それなら、どういうことか説明してくれ』
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時は1週間前に戻る。
ノベトがパリオンに万物修復を施し、意識を失ったときから始まる。
パリオンは光が消えた後、自身の身体に違和感を覚えた。
遥か昔に感じたあの感覚。
魔力が溢れ出すような感覚。
念のため、彼はゆっくりと手を額に当てた。
そこには、失われていたはずの魔力の源が戻っていた。
彼の角が──かつてよりもさらに大きく、力強く、再生していた。
「……戻った?」
パリオンには信じられなかった。
あれほど長く諦めていた力が、伴侶のために、今再び蘇ったのだ。
不可能が可能に変わる──その瞬間だった。




