第91話
「はい、先生。それでは具体的に何を学ぶことになるのか、簡単に聞いてもいいですか?」
「良い質問ですね。ノベト様がこれから学ぶのは、歴史、地理、文化、マナー、護身術……」
「ちょっと待ってください。多すぎませんか? 一ヶ月で全部学べるんですか?」
「心配しないでください。学ばなければならないのです。」
「学ばなければならないって、どういう意味ですか?」
先生は困ったように右手の人差し指を顎に当てながら言った。
「そうですね……領主様から事情は伺っております。一ヶ月後に教会関係者と会談を控えていると。であれば、ある程度の知識がなければ話になりませんし、疑いも持たれてしまうでしょう。」
「……先生は私が疑わしいと思いますか?」
「今日お会いしたばかりですが、ノベト様は善良な方だと感じています。むしろ懐かしさすら感じるような……」
私は先生に初めて会った。
しかし、この人はなぜか、久しぶりに再会した知人のような眼差しで私を見てくる。
その青い瞳には、どこか愛情のようなものすら感じられる。
気のせいであってほしい。
「それならこのまま教会関係者と会っても問題ないのでは?」
「教会関係者の中には異端審問官もいます。ノベト様が注意すべきは彼らです。今のままでは、彼らに即座に拘束される可能性もあります。例えば、国家名と教会名をご存知ですか?」
確か、領主が何か言っていた気がする。
思い出せそうで思い出せない。
「あ、アポ……」
「はい、この時点で拘束されるでしょう。この国に住んでいる者であれば誰もが知っていることです。それを知らないのは、不審者とみなされます。」
「……それは厳しすぎませんか。」
「ノベト様、この国は多民族国家です。そのため様々な思想や文化が入り混じっています。しかし、その中の一部が国家を危うくするのであれば、国家はどうすると思いますか?」
排除するだろう。
国家にとって危険な要素は、いずれ滅びをもたらすものであれば、当然排除されるべきだ。
しかも、この国が多民族国家であることすら、私は初めて知った。
「それゆえ、教会では少しでも国家の危機になり得る要素があるなら、徹底的に対処しようとします。そんな状況で国名も知らないあなたは、相当疑わしい存在として認識されるでしょう。」
「例えばの話ですが、私が疑わしい者だと仮定したら、異端審問官は私にどうしますか?」
「良い質問ですね。ではノベト様がどうなるか、噂に基づいてお話ししましょうか。」
そうして先生は、もしもの話を語り始めた。
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外界から隔離された暗い空間。
照明は古びた松明のみ。
X字の拘束台に下着姿で縛られた一人の男がいた。
彼は罪人である。
最初は身体を動かして抵抗しようと必死だったが、その努力は蜘蛛の糸が切れるようにあっさりと潰えた。
最終的に彼は抵抗を諦め、周囲を見回した。
その視界に、ある異様な人物が現れた。
筋肉質の身体にタイトな黒革のズボンとブーツを履いた半裸の男。
顔は黒いマスクで隠され、顎をくねらせて不気味に笑っている。
「クフフ……罪人よ、今日も女神様に懺悔する準備はできているか?」
そう語る彼こそが異端審問官だった。
彼から言葉にできない拷問を受け、心も体もボロボロになった罪人は、ただ辛うじて頭を垂れるだけだった。
この空間では魔法は使えない。
非常事態に備えた魔法無効化の魔石が随所に配置されているからだ。
魔法で自己治癒することも、防御することもできない。
ただ、異端審問官の拷問を黙って受け続けるしかない。
「今日はこれを試してみようか……」
異端審問官は奇妙な果実のような形をした金属製の器具を取り出した。
「これは『浄化の果実』と呼ばれていてな……体内に入れて、ここを回すと……」
器具はガシャリと音を立てて開き、元の大きさの三倍ほどに展開された。
どこに入れられても、その形状になった瞬間に耐え難い苦痛が訪れることは明白だった。
その想像だけで、罪人は絶望に満ちた目で痙攣しながら悲鳴を上げた。
「あ……ああっ! ああああああっ!」
必死に抵抗しても無駄だった。
その足掻きを楽しげに見つめながら、異端審問官は恍惚の表情を浮かべた。
「クフフフ……罪人が浄化されていく様子は、なんと素晴らしいことか……さあ、今日も女神様に懺悔する準備が整っているか確認しよう。」
異端審問官は徐々に罪人に近づいていく。
彼のブーツが石床を踏むたびに音が鳴り、空間にこだまする。
彼はねっとりとした視線で罪人の身体を頭の先から足の先まで舐めるように見つめ、口を開いた。
「今日は……目だ。」
そう言って、痙攣する罪人のまぶたを無理やり開き、自身の舌を伸ばしてその右目に触れた。
「ペロペロペロペロ……」
異端審問官はまるで美食家のように、罪人の目玉を舌で転がすように味わった。
罪人にとって、嫌悪という感情はもうとうに消え失せていた。
「ふむ……まだ女神様を受け入れる準備ができていない味だな。悪くない味だ。では、始めようか。」
そう言って、異端審問官は金属製の器具をゆっくりと罪人の下半身へと近づけていった。
罪人はもう思考を止めていた。
どれだけの時間が経ったのかも忘れてしまっていた。
この拷問がいつ終わるのかも分からない。
希望もすでに砕けた。
ただ、すべてを諦めて体を委ねるしかない。
いつか訪れるかもしれない懺悔の終わりを、ただ待ち続けるしかないのだ。




