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第89話

こうしてエルフたちのホルダーの森への移住は無事に完了した。

その後、もちろんメイドのヘレンさんには誤解を解くために一生懸命説明し、少し名残惜しそうな表情をしていたが、納得してくれた。

エルフたちは順調にホルダーの森に移り、さまざまな変化が訪れた。

まず、オデルリアが以前よりも大きく成長した。


「アハハハ...ここは魔力が溢れていて...力がみなぎる...まさに楽園! 今なら国でも壊せそう!」


それはやめてくれとオデルリアに頼んだ。

以前住んでいた森よりホルダーの森の方が魔力が豊富なのか、その影響で精霊の力が強くなり、精霊樹はぐんぐん育ってホルダーの森でも最大の木になり、森の範囲も広がった。

その結果、精霊の力に満ちたホルダーの森にはさまざまな種類の果実が実り、エルフたちは果樹園を作り、店に卸すようになった。

ノベト商会に。

今では魔道具屋というより果物屋と言ったほうが正しいかもしれない。

エルゼリア一人では毎日押し寄せる客をさばききれず、他のエルフたちを従業員として雇い、店を運営するようになった。

果物は町で大人気となり、その評判は各地へと広がって他の領地や王都にも販路が拡大された。

たまに果物をこっそり盗み食いした魔物が急激に成長することもあり、ギルドの冒険者たちはホルダーの森でマモノ退治クエストに励むようになった。

これによって領主はフェレオラ村の発展を大いに喜び、エルフたちも豊かになった生活を楽しみながら平和に暮らすことができるようになった。

すべてうまくいって、本当に良かったと思う。

これで私は自宅でのんびり過ごせると思っていた。


「ノベト、これ飲んでみて。今回収穫した果物で作った果実酒だよ」


オデルリアはよく私の家に来る。

ホルダーの森が近いせいか、いつでもどこでも私の所に来られると喜んでいた。

嬉しそうだからまあ良しとするか。


「…なあ、オデルリア?」

「ん?」

「一応俺にもプライバシーってのがあるんだけど?」

「ん?」

「こうも頻繁に来られると…ほら、他の人が誤解するかもしれないし…」

「関係ないでしょ? ノベトと私の関係だもん」


それは俺もよくわからん。

仕方なくオデルリアがくれた果実酒を口にした。

甘い。

酸味と甘みがちょうどよく調和していて、飲んだ瞬間、体に活力が湧くような気がした。


「…うまいな、これ何だ?」

「名前も効能もわかんない。でもだからこそ、まずノベトに飲ませてみたの」


なるほど。

俺は試飲担当か。


「私は大丈夫だと思う」

「ほんと? じゃあエルフたちにも伝えておくね。次もお願いね」

「一応、もう一回くらい確認しとけよ」


そんな出来事もあったかと思えば——


「ノベト! 今日は一杯付き合え!」


ベルゲが私を居酒屋に連れて行った。


「今日はマモノをいっぱい倒したんだ! 気にせず楽しもうぜ!」


居酒屋ではすでにベルゲの陽気な仲間たちが賑やかに酒を飲んでいた。


「おお、ノベト!」

「その姿ならどれだけでも飲めるだろ!」

「さあ、乾杯だ!」


かつて彼らには禁酒令が出されていたらしい。

無理もない。酒が原因で村を危険に晒しかけたのだから。

それを償うように、彼らはホルダーの森の開拓や果樹園の管理に励んでいた。

時にはマモノ退治もしながら。

その努力が実を結んだのか、村長は彼らの禁酒令を解き、当日中に居酒屋へと向かった。

彼らが再び現れたとき、店主は最初こそ警戒していたが、大きな騒ぎもなく、時にはみんなに酒を奢るような気前の良さを見て、今では立派な常連客として迎え入れている。

まあ、何かあったら私がなんとかしよう。


「本当にありがとうな」


ベルゲが杯を空けながら言った。


「何が?」

「俺たちのために色々尽くしてくれてさ」

「別に尽くした覚えはないけどな」

「いやいや、謙遜するなって!」

「さあ、飲もうぜ!」


私は顔の兜を上げて、木製の杯を口に運んだ。

楽しい。

かつてのようにベルゲの首にぶら下がって見ていた風景と、今の自分の目線で見る景色は、どうしてこんなにも違って見えるのだろう。


「そういえば、ホルダーの森の王って聞いたことある?」


スレインが言った。


「推定Sランクの魔物のことか……ギルドも手配書を出したけど、まだ見つかっていないな」


パンテイルが続けた。


「最近は活動もないみたいで残念だな……でも、もし見つけたら俺たちが先に仕留めるよな?」


メンディンが笑って言った。


ホルダーの森の王か。

以前、受付嬢のイリアもそんなことを言っていた気がする。

どんな奴なのか、一度見てみたいものだ。


そうして酒場で楽しい時間を過ごした私たちは、また会う日を楽しみに、それぞれの家へと帰っていった。


静かな村の夜道をゆっくりと歩いた。

周囲を見渡せば、平和そのものだった。


「……テン」


彼女は相変わらず言葉を発しない。

もう長い間、会話はなかった。

でも、わかる。

彼女はまだ私の精霊核の中に生きている。

いつか時間ができたら、オデルリアに相談してみるのもいいかもしれない。


私は家に戻り、ベトの姿に戻って静かに眠りについた。


---


「なに? 私の店が果物屋になったって?」


初めてビエラから連絡があった。

王都でフェレオラ産の果物が有名だと聞いて、気になって尋ねてきたのだ。

私はこれまでの経緯をビエラに説明した。

ビエラはため息をついて言った。


「はぁ……あんたって本当に面白いことばかりやるのね」

「褒めてるのか?」

「違う」

「しょうがないだろ、今はエルゼリアが店の代表なんだ」

「代理でしょ、代理!」

「じゃあ、お前が戻ってきたら何とかしてくれよ」

「まだまだ帰れそうにないの!」

「そうか……ところで、リアネットは元気か?」

「あの子のことね……」


ビエラはしばし沈黙した。


「何かあったのか?」

「ううん、むしろ予想以上にすごくて驚いてるのよ」

「そうか?」

「後で領主様にも手紙を書くつもりだけど、首席で入学したの」

「おお……」

「詳しくは知らないけど、使える魔法属性が6つもあるとか。信じられないでしょ」

「すごいな。将来は大魔法使いになるかもな」

「でも本人は、父親の跡を継いで領地を経営したいんですって」


意外だった。

リアネットなら、もっといろんなことをやってみたいと思っていると思っていた。


「今は主に属性を使った生活魔法の研究に夢中みたい」

「“みたい”って? 一緒にいないのか? お前、リアネットの護衛として行ったんじゃなかったのか?」

「……うるさいわね。こっちにもいろいろ事情があるのよ……」


私はそれ以上深く聞かないことにした。

代わりに話題を変える。


「ここから王都まではどれくらいかかる?」

「馬車で1ヶ月くらいかしら? 途中の町で休みながら行けばもっとかかると思う」

「かなり遠いな」

「そうよ……何かあっても助けを求めるにはちょっと遠すぎる距離ね」


ビエラが苦笑いしたようだった。


「もしかして、俺の助けが必要だったりするのか?」

「今はまだ大丈夫」

「“まだ”ってことは、必要になるかもってことだな?」

「内緒よ」

「じゃあ、特別料金で対応しよう」

「……冗談でしょ?」

「お前に教わったことだ」

「とにかく! こっちは元気でやってるから! また連絡するわね」

「好きにしろ」


そうしてビエラとの連絡を終えて、応接室の椅子に腰を下ろした。

みんな元気にしているようで、安心した。


……はっ。

ふと気づいた。

もうギルドに行かなくなって、3ヶ月近くになる気がする。

ギルドカードの更新は本人が直接行わなければならない。

仕方ない。

私は体を起こし、家を出てギルドへ向かった。

日差しは明るく、小鳥のさえずりが心地いい。

人々も以前よりも活気に満ちているようだった。

歩いていると、屋台が見えてきた。

ストレートボアの串焼きを売っている、あの屋台だ。

ギルドに行く前に、軽く腹ごしらえしていこうか。

願わくば、この穏やかな日々がずっと続きますように。


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