第85話
「冒険者登録と更新に来ました」
受付嬢のイリアは、正体不明の威圧感を放つ二人のエルフに押されるように、彼らの要求をすんなりと受け入れた。
エルゼリアはFランク、ベルゲはCランクの冒険者となった。
その後、ギルド内のあらゆるクエストを片っ端から受けて、全て解決していった。
薬草採取から魔物討伐まで、その処理速度は人族では到底及ばないものだった。
ギルドでは異例ながらも二人の功績を認め、共にBランクへ昇格させた。
そして彼らには“狂乱のエルフ”という異名が与えられた。
十分な資金を得た二人は、ビエラの店を訪れた。
「ノベトを買い戻しに来ました」
ビエラは目の前の金袋とベルゲ、エルゼリアを交互に見た。
「えっと、それが…今は居ないのよね…」
エルゼリアは迷わず矢筒から弓を取り出し、弦をビエラに向けて引いた。
「わかりやすく説明してくれますか?私が我を忘れる前に」
ビエラは悟った。
以前見た儚げだったエルフのお嬢様は、もはや一人前の戦士へと変貌していた。
しかも筋骨隆々のエルフ――ベルゲの実力も侮れない。
Bランクを自負するビエラでも、この状況では到底敵わない。
「…フェレオラ邸」
ビエラは命の危険を感じ、ようやく口を開いた。
こうして三人はフェレオラ邸へ向かった。
「ノベトはここにはいない」
領主の一言に、エルゼリアは矢筒に手を伸ばそうとしたが、ビエラがそれを止めた。
「待って、相手は領主様よ!」
「それが何か?」
「下手すれば種族間の問題になるわよ!」
領主はノベトが娘リアネットを救い、魔道至上教の一味を片付けたことを語った。
そしてある日、壊れた屋敷を修復し、そのまま姿を消したという。
ベルゲとエルゼリアは落胆した。
ようやくノベトにたどり着いたと思ったのに、また振り出しに戻ったのだ。
領主はノベトを探すため、ギルドへ捜索依頼を出すと約束した。
そんな中、村の近くのホルダーの森に迷宮が発生したという噂が広がった。
村内のBランク以上の冒険者は、魔物の暴走行進による危機を食い止めるべく召集され、ビエラ、ベルゲ、エルゼリアも森へと向かった。
予想以上に魔物が強く、進軍は困難を極めた。
そのとき、遠くで大きな轟音が鳴り響いた。
「何事だ?」
「迷宮の入口が壊れたようだ。俺が見てくる」
「待って、魔物はどうするの?」
二振りの短剣を持ったビエラが不満を漏らす。
「見れば分かるだろう。魔物たちの力が弱まってる。お前なら対処できるはずだ」
「ちっ」
ビエラが舌打ちするのを背に、ベルゲは轟音の発生源へと走った。
それは魔力の爆発だった。
ベルゲは魔法こそ使えないが、魔力を感じ取ることはできた。
その魔力には覚えがあった。
まさか、あいつかもしれない。
なぜここにいるのかは分からない。
だが、会えるならそれでいい。
「こっちだ!魔力の爆発はこのあたりだ!」
そう叫び、ベルゲは一足先にその光景を目にした。
迷宮の入口は完全に破壊されていた。
まるで巨大な何かの力で押し潰されたようだった。
「…暴走行進は止まったな」
大きな危機は、あっけなく終わった。
ギルドに報告に戻った三人は、イリアから妙な話を耳にする。
「そういえば、奇妙な冒険者を見ましたよ」
「奇妙って?」
「はい。ホルダーの森でダークベアを倒したFランクの冒険者です。私が知ってる子たちを助けてくれた、素晴らしい人です」
「名前は?」
「ノベトというそうです」
エルゼリア、ベルゲ、ビエラの三人はその場で固まった。
ノベト。
この世界でありふれた名前ではない。
その人物なら、ノベトについて何か知っているはずだ。
三人の直感は一致していた。
「イリア、そのノベトがまた来たら、私に知らせて」
ビエラが言った。
「でも、どうやって…」
「ここに来る時間帯だけ分かれば十分よ」
「わ、分かった」
「それと、私たちが探しているってことは絶対に言わないでね。いい?」
「う、うん…」
その後、三人は手分けしてFランクのノベトを探し始めた。
町のあちこちを探しても見つからなかった。
毎日ギルドに通っても、そのFランク冒険者の噂はなかった。
ホルダーの森を探しても、出てくるのは魔物ばかりだった。
ついでに、エルゼリアは森にオデルリアからもらった種を植えた。
そして、しばらくの時が流れた。
「私の店を少しの間、任せて」
突然、ビエラがエルゼリアとベルゲの宿を訪れた。
「どういうことですか?」
「急に店を新しく開いたんだけど、事情があってしばらく営業できそうにないの」
「私が暇じゃないの知ってるでしょう?」
「だからお願いするのよ」
会話はかみ合わなかった。
結局、ビエラがため息をついて言った。
「見つけたのよ、ノベトを」
「えっ?」
「見つけたの。あのFランク冒険者が、本人だったのよ」
「どうやって…でも…」
「とにかく、明日店にいれば、あいつが来る。じゃあね」




