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第83話

ビエラは意味深なことを言ってリアネットと一緒に馬車に乗って去っていった。

領主や使用人たち、そして俺は馬車が見えなくなるまで見送った。


「リアネット…やっていけるだろうか。」


領主の不安げなつぶやきが聞こえた。


「大丈夫じゃないですか?心強い従者もいますし。」

「そうだな。」


リアネットを見送った後、俺はビエラの言葉を思い出しつつ「ノベト商会」の新しい店主代理に会いに向かった。


俺の知り合いらしいが誰だ?

アイクやレイナではないだろう。

この街で知ってる人は少ない。

色々考えながら歩いているうちに、新しい店の前に着いた。


「…おお。」


前の店より大きい二階建てで、立派な看板が目を引く。


「ノベト商会…」


大丈夫か、こんな店を任せられる代理なんて。

商売のプロとか?

そんな知り合いはいないんだが。

少し緊張しながら、そっと扉を開いた。


「いらっしゃいませ、ノベト商会へようこそ。」


この声、聞き覚えがある。

少なくとも人族じゃない。

そういえばビエラは「お前を知ってる人」としか言わなかった。


気まずい沈黙が流れたのか、店主代理がもう一度言った。


「…最初のお客様ですね。」


俺はその顔をじっと見た。

長い耳、金髪、エメラルド色の瞳。

エルフだ。

エルゼリアだった。


「久しぶりだな。」


自然と最初に出た言葉だった。

ここに来て最初に出会った存在。

そして俺を気遣ってくれた人だ。


「…え?」


エルゼリアの瞳が丸くなった。

状況を理解できないようだった。

だが、それも一瞬。

ゆっくりと目に涙が溜まり、次第に大きくなっていく。

そして彼女は俺に飛びついた。


「…ノベト。」

「そうだ、俺だ。」


エルゼリアは俺を強く抱きしめた。


「無事で…本当に良かった…」


俺はそっと彼女の背中を叩いて慰めた。


「悪いな。すぐに行こうと思ってたけど色々あってさ。」

「それはビエラから聞いたわ。」


そうだろうな。ビエラなら話してるだろう。

エルゼリアが落ち着くまで、俺は店内を見渡した。


何も置かれていない。

魔道具屋じゃないのか。

じゃあ、ここは何を売るんだろう。

後で聞いてみるか。


やっと落ち着いたエルゼリアが、少し恥ずかしそうに俺を見た。


「ノベト、こんなこと言うのも何だけど…」

「大丈夫、手伝うよ。」

「もう一度、私たちの村を救ってくれる?」

「また精霊樹が汚染されたのか?」

「それは違うけど…詳しい話は歩きながらするね。」


エルゼリアに手を引かれ、店を出た。

ちゃんと「準備中」の札を掛けてから。


「…この方向、ホルダーの森だな。」

「そう。ホルダーの森を抜けて村に戻るの。」

「話を聞かせてくれ。」


歩きながら、エルゼリアは俺がいなかった間のエルフの村の出来事を話し始めた。


---


ベルゲとその陽気な仲間たちがフェレオラ村で物資を買って村に戻った日、最初に出迎えたのは精霊オデルリアだった。


「ノベトは?」


抑揚のない冷たい声に、ベルゲは冷や汗をかきながら答えた。


「…事情があって、しばらくフェレオラ村に残ることになりました。」

「事情?どんな事情?」


銀白色の長髪、エメラルドの瞳をした精霊オデルリアは、ベルゲをじっと見上げた。

その視線はまるで猫が鼠を問い詰めるようだった。

いや、猫どころじゃない。

ベルゲは陽気な男だが、相手が自分より上位の精霊だと知っている。

下手に出なきゃ命はない。


230年生きたエルフとはいえ、何百年も生きる精霊相手にどう説明すればいいか頭をフル回転させていた。


「ねえ、聞いてる?事情って何?」

「そ、それは…」


ベルゲは目をつぶった。

正直に話せば確実に怒られる。

そしてその怒りがどこまで及ぶか分からない。

下手をすれば村全体が消えるかもしれない。

だが言わないわけにはいかない。

ベルゲは覚悟を決めて口を開いた。


「ノベトはまだ村を回って文化を学びたいそうです。」


言わなかった。

そして全員が声の主を見た。


「エルゼリア、だっけ。」

「はい、オデルリア様。」

「ノベトは私に“必ず戻る”って言ったけど?」


オデルリアはゆっくりとエルゼリアに向き直った。


「それより文化を学ぶほうが大事だってこと?」


怒りの矛先がベルゲからエルゼリアに移った。

ここで下手なことを言えば取り返しがつかない。


「ノベトは、人間の文化をもっと知りたいって言ったんです。」

「…そう。」

「次に村に来るときは必ず一緒に来ます。」

「嘘じゃないよね?」


嘘は言ってない。

ノベトは確かにそう言っていた。


「はい、オデルリア様に伝えます。そして必ず一緒に来ます。」


オデルリアは少し考え込むと、やがて小さく頷いた。


「…ノベトなら、そういうこともあるかもね。」


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