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第78話

「はぁ、はぁ、ノベト様…」


彼女は俺の大胸筋に頬をすり寄せてうっとりしている。


「お、おいリアネット!離れろ!」


おかしい。安息の魅了はもう制御できているはずだ。


「前のふわふわの体も良かったけど、この硬い筋肉もなかなか…」


三ヶ月の鍛錬が無駄になる瞬間だった。

柔らかくても硬くても意味がないのか。

俺は助けを求めてビエラを見た。

ビエラは視線を逸らして遠くを見ていた。

次に領主を見た。

領主は一瞬動揺した顔をしたが、何度か咳払いをしてリアネットに言った。


「え、えーと、リアネット…ノベトが困っているじゃないか。」

「は?」


彼女はピタリと動きを止め、ゆっくりと領主を振り返った。

領主はその顔を見て思わずビクッとした。


「ノベト。うちの娘が随分と恋しがっていたんだ。少しの無礼は許してやってくれ。」


この人、完全に親バカだ。

俺はため息をついて、リアネットを抱えたまま話を続けた。


「その鎧のことですが、できれば譲っていただけませんか?」

「それはもう、お前にくれてやるさ。」

「え、いいんですか?」

「考えてみれば、私はお前に何もしてやれていない。リアネットを治療してもらった礼もまだだ。」

「その分はビエラに渡したじゃないですか。」

「それはビエラへの礼だ。お前がこうして来てくれたなら、別に礼もするつもりだった。」

「そうですか。」

「それに、うちを綺麗に修復してくれたじゃないか。」

「まあ、それはついでというか…」

「だからだ。」


領主は真剣な目でこちらを見た。


「うちで働いてみる気はないか?」

「ありがたいですが、お断りします。」

「理由を聞いてもいいか?」

「元はベト、今は冒険者です。この姿もまだ未完成で、もっといろんなものを見て修行したいんです。」

「そうか…」


領主は少し寂しそうな顔をした。

流石に「ダラダラのんびり暮らしたい」なんて本音は言わない方がいいだろう。


「それなら、この街に定住するつもりはあるのか?」

「はい。家を探していて、落ち着いて暮らしたいと思ってます。」

「私は不動産屋ではないがな。」

「でも領主様なら紹介くらいはできるかと。」


領主は少し考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「…一軒だけあるにはある。」

「本当ですか?」

「ただし少し問題があってな…」

「それくらいならどうにかします。」

「ならその家をお前に譲ろう。」

「本当ですか?ありがとうございます!」

「場所もここから近いし、ギルドにも近い。立地は悪くない。ただ…」

「ただ?」

「かなり修理が必要だ。覚悟しておけ。」

「問題ありません。」

「それと、もし街のために何か必要なことがあったら、力を貸してくれ。」

「家をもらえるなら当然です。」


何か曰く付きの物件っぽいが、まあ何とかなるだろう。

それより大事なことがある。


「それと、着替えを一式いただけませんか?」


さすがに上半身裸は勘弁してほしい。


そうしてフェレオラ邸で話を終え、領主に紹介された家に向かった。

ギルドや領主邸にも近い、街の中心にある家だ。

庭もあって、二階建てで広さも十分。

問題は、原型が四分の一しか残っていないことだ。


「これは…“少しの問題”じゃないだろ。」


ビエラがぼそりと呟いた。


「昔ここで火事があって、予算もなくて再建できなかった場所だそうです。だから今はほとんど空き地みたいなものですね。」


リアネットが俺の背中に抱きついたまま説明してくれる。


「なあ、リアネット…そろそろ降りてくれないか?」

「嫌です。」


リアネットは屋敷にいた時からずっと俺にくっついたままだ。

着替えのとき以外はずっと監視してるような感じだ。

領主は当然止めようとした。

でも親バカだから勝てなかったようだ。

結局、娘が俺と一緒に行動するのを認めてしまった。


「離れたらまた逃げるでしょ?あの時みたいに…あの時みたいに…」

「もう逃げないって。」

「信じられません。」

「ビエラ、助けてくれ。」


俺はビエラを見て助けを求めた。

ビエラはにっこり笑って言った。


「私もお嬢様には散々苦労させられたし、今度はあんたの番でしょ?」


…なるほど。確かにこんなリアネットに一ヶ月付き合わされたら心が折れそうだ。

リアネットお嬢様、いったいどうしてこんな風になってしまったんだ。

俺が変えちまったのか、それともこれが素だったのか。

周りを見渡す。

幸い、他に人の気配はない。


「それでもいいからちょっとだけ離れてくれ、リアネット。」

「嫌です。」

「この家を修理するんだ。リアネットもビエラも巻き込みたくない。」

「本当ですね?」

「本当だ。」

「嘘ついたら私の魔法全部ぶつけますからね。」

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