第79話
リアネット、魔法も使えたのか。
俺は二人を安全な場所に避難させてから、残った家の一部に万能回復を使った。
パァッと光が広がり始めた。
崩れかけていた家が、まるで細胞が再生するかのように元の姿を取り戻していく。
後ろを振り返ると、ビエラとリアネットは目を丸くしてその様子を見ていた。
万能回復の魔法は便利だ。
ホルダーの森で鍛えたのは人族形態を維持するだけではない。
他の魔法をどう応用するかも研究してきた。
その結果、この魔法は人間だけでなくあらゆるものを再生できると理解した。
素材がなくても、自分の魔力を使って足りない部分を補う。
これが広まれば面倒なことになるだろう。
こうして新しい俺の家が完成した。
「ビエラ、リアネット。一応言っておくが…」
「もちろんアンタのことは誰にも話さないわよ。もう面倒事はごめんだし。」
「ノベト様のことは私だけが知ってればいいんです!」
言いたいことを分かってくれて助かった。
仕上げに空間支配を使って家の内外をきれいにした。
さあ、自分の家に入ろう。
1階には広い応接室。
少し奥には台所と食事スペース、部屋が二つ。
階段を上がると4部屋あった。
一人で住むには十分すぎる広さだ。
だが何かが足りない。
「なあ、ここってトイレとか風呂はないのか?」
水道がない。清潔を保つには水が必要だ。
「そりゃあるけど、この家にはないわね。」
ビエラが言った。
「どうすればいいんだ?」
「普通は共同浴場を使うわよ。トイレもそこにあるし。」
「個人でトイレや風呂を持つなんて大贅沢です。」
リアネットが補足した。
「詳しく教えてくれ。」
「でもアンタ、浄化魔法持ってるから困らないでしょ?」
「もし客が来たときのために備えたいんだ。」
「まあ、ノベト様、私が住むことまで考えて準備してくれるなんて…」
そんなつもりはない。
「水を使うなら水魔法を込めた魔石を使うの。トイレなら浄化魔法を込めた魔石を深い穴に設置するのよ。」
「ビエラもそうしてるのか?」
「もちろん。私は魔道具屋だからね。ただ品質によって持ちが違うわ。基本は一年くらいね。」
「値段は?」
「それぞれ金貨20枚くらい。」
「高いな。」
リアネットが口を挟んだ。
「でもこの街なら5枚くらいで買えます。」
「本当か?」
「はい。父が暮らしやすくするために王都から大量に仕入れて、住民にその価格で売ってるんです。」
治安がいいのもそのせいか。
これが福祉ってやつか。
フェレオラ領主、やるな。
「もちろん税金を徴収してるからできることですけど。」
「リアネット、詳しいな。」
リアネットは腰に手を当てて得意そうに笑った。
「私もいずれは領主になる身ですから、これくらい常識です。」
「助かったよ、リアネット。じゃあその魔石は領主から買えばいいんだな?」
するとリアネットの表情が曇った。
「それが…今はもう売り切れなんです。住民分しか仕入れてないので。」
残念だ。
なら他の方法を考えないとな。
「それ、私が何とかしてあげようか?」
ビエラが救いの手を差し伸べた。
…いや、救いというより値を吹っかけるつもりかもしれない。
「さっきみたいに高値ふっかけるなら断る。」
「違うわ。これはお互いに得する提案よ。」
「…聞こうか。」
「一日だけ時間をくれれば、トイレも風呂も家具も魔石の問題も全部解決してあげる。」
「条件は?」
「1階を私のお店にしていいってこと。」
「却下だ。それなら他の業者を探す。」
「待って待って待って…!」
ビエラが俺にしがみついた。
今は頭だけ鎧を被ってる状態で、服越しに彼女の感触が伝わる。
人族形態だからか、さっきリアネットに背中に抱きつかれたときとはまた違う感覚だ。
これはまずい。
「離れろ、ビエラ!」
俺は彼女の肩を掴んで引き離そうとした。
だが簡単には離れない。
「ノベト様から離れてください、ビエラ!」
「子供は黙ってな!」
「な、なんですって!」
「こっちは生活がかかってんのよ!」
ビエラがリアネットを睨むと、リアネットは少し怯んだ。
切羽詰まってるのはビエラの方か。
「今の店は変な客ばかり来て、商品も売れないんだよ…」
「ギルドの依頼は?」
「私は魔道具屋をやりたくて冒険者になったんだよ!なのにBランクってだけで余計な仕事ばっかり振られて…アンタ分かる?」
「分からん。」
「だったら黙って私に新しい店を出させて!」
「ビエラ、俺は静かに暮らしたいんだ。店なんか開いたら騒がしくなるだろ。それは勘弁してくれ。」
「そうですよ!ここは私とノベト様の愛の巣になるんですから!」
「リアネット、話がややこしくなるからちょっと黙っててくれ。」
…困った。
ビエラが必死なのは分かる。
でも自分の家を店にするのは勘弁だ。
客が増えたら落ち着けなくなる。




