第77話
「詳しい話は後だ。」
「ギルドに行くって言ったよね?一緒に行く。」
「俺一人で行ってもいいだろ?」
「ダメ、また急に消えたら困る。領主様に報告して、エルフたちにも知らせるまで安心できないの。」
「そうか、そうしよう。」
こうして俺はビエラと一緒にギルドへ向かった。
道すがらこれまでの経緯を説明した。
フェレオラの屋敷で人族形態になった結果、安息の魅了を制御できず鎧を着たまま森に逃げ込んだ話。
ホルダーの森でアイクとレイナを助けたこと。
魔物の暴走で迷宮の入口を封鎖したこと。
再び森に戻って安息の魅了を制御するために鍛錬していたこと。
そしてギルドカードの更新期限が近づき、町に戻ったことまで。
「…それで今は大丈夫なんだな?」
「多分な。」
ビエラは髪をぐしゃっとかき乱した。
「まったく…呆れるしかない。」
「仕方なかったんだ。」
「それでマジックバッグは何のために?」
「森で鍛錬中に魔石を結構手に入れたんだ。それをギルドに売ったら買取金が多くなってな。」
「どれくらい?」
「行けばわかるさ。」
そんな会話をしているうちにギルドに着いた。
「イリアさん、マジックバッグ買ってきたぞ。」
「はい、残りの金貨100枚…ビエラさん?」
「やあ、イリア。」
呼び方からして二人は結構親しいようだ。
「まさかノベトさんに高値で売りつけたりしてないでしょうね?」
ん?ぼったくり?
ビエラを見た。
ビエラは目を逸らして別の方向を見ていた。
俺はマジックバッグをイリアに見せた。
「イリアさん、これギルドで使ってるのと似たようなやつだろ?いくらで売ってる?」
「金貨30枚です。」
「ビエラさん、商魂たくましいね!」
「今までの苦労の慰謝料だと思って。」
ビエラは舌をちょろっと出して笑った。
俺はカウンターに置かれた残りの金貨袋をマジックバッグにしまった。
「ところでノベトさん、どうしてビエラのお店に行こうと思ったんですか?」
「前にイリアさんが“魔道具のビエラ”って言ってたからな。」
「え、それは…」
「イリア、何を言ったの!」
ビエラが顔を赤くして声を上げた。
「何だ?自慢の異名じゃないのか?」
「違う、そういうんじゃ…」
「言わないで!…ごめんなさいノベトさん、ちょっと言いにくいみたいで。」
「気にするな。イリアさんを困らせるつもりはない。」
「でも一つだけ言わせてください。ビエラさんは魔道具の知識なら誰よりも信頼できます。ただ、ちょっとお金にシビアなだけで。」
「そうか。イリアさんがそう言うなら安心だ。」
「はい、いい子なんですよ。」
「イリア!」
「もう用事は済んだな。ありがとうイリアさん。」
「はい、また来てくださいね。」
俺は手を振るイリアに同じように手を振ってギルドを出た。
ビエラはイリアと少し話があると言って俺に待つように言った。
ギルドの入口で腕を組みながら待った。
周りを見渡す。
平和だ。それが一番しっくりくる光景だった。
走り回る子供たち、人だかりの露店、噴水の周りに集まる人々。
空は青く、風は心地よく吹いていた。
こんな日常を維持できるのもフェレオラ領主のおかげだろう。
これから領主の屋敷に行って事情を話さないとな。
『なあ、テン。別に怒ってるわけじゃないよな?』
相変わらず返事はない。
でも隙あらば声をかけ続ける。
いつか彼女が応えてくれるのを待ちながら。
用事を終えたビエラがすぐに俺の手を取ってフェレオラの屋敷へと歩き出した。
屋敷の門番は俺を見て不審そうな顔をしたが、ビエラを確認するとすぐに通してくれた。
そして俺たちはフェレオラ領主の応接室で対面した。
最初に俺を見たとき、
「…俺の鎧コレクションか?」
「ノベトです。」
と怪訝な顔をされたが、ビエラの説明でなんとか理解してもらえたようだ。
領主は額を押さえてため息をついた。
「色々と理解しがたいが…ノベトだからそうなったと信じるしかないか。」
「そういうことなので、俺を探す依頼は取り下げてくれると助かります。」
「そうしよう。」
「それとこの鎧だが…」
「ノ、ベ、ト、様ぁ!!!」
背後から突然のハグ。小さく白い手。
その主はリアネットだった。
「よぉ、元気だったかリアネット。」
「ずっと会いたかったんです!」
「どうして俺だって分かった?」
「私なら分かります!」
彼女は素早く俺の頭の鎧を外した。
「おいおい…リアネット?」
「えいっ!」
俺は慌てて頭の鎧を抑えて装着し直したが、その間に彼女の素早い手で腕や胴体の鎧も脱がされていた。
突然人前で上半身裸の変態になってしまった。
なんだこれ。
リアネットは病弱だけど、白い髪と青い目が印象的で微笑みが可愛い少女だと思ってた。
だが今は俺の体にぴったり抱きつき、まるで別人のようだった。




