第75話
「ふむ、ちょっと興奮しすぎましたね。すみません。」
「そんなに興奮することだったか?」
「はい、この討伐量はBランク冒険者パーティーに相当する量なんです。」
「なるほど、それで驚いたのか。」
「もしかして、これを一人で倒したんですか?」
「まあ、鍛錬中に襲ってきたから仕留めただけだ。」
イリアはため息をついた。
感情表現が豊かな子だ。
「あなたは…なんというか、常識外れの人ですね。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
「では買取の話に戻しましょう。」
イリアは眼鏡を直した。
「現時点での相場だと、Eランクのキラートレントとストレートボアは金貨5枚、Dランクのダークベアは金貨20枚です。」
「EとDで結構価格差があるな。」
「危険度による区分ですが、同じランクでも価格差がある場合もあります。状況によって変動するんですよ。」
まあ、納得だ。
「で、買取価格は金貨200枚になりますが、よろしいですか?」
その瞬間、ギルド内がざわついた。
「聞いたか?金貨200枚だって?」
「この街で普通に屋敷を買ってもお釣りが来る金額だぞ!」
「Fランクが?絶対何かの間違いだろ。」
周りが何やら言っていたが、聞き流した。
それにしても、ホルダーの森の王ってやつは一体誰だろう。
異世界転生してベッド、いやここではベトと呼ぶが、ベトになった俺は色々あって今の人族の姿を取れるようになった。
だが、人族形態だと「安息の魅了」というのが常時発動して全ての生物を駄目にして俺に飛びかかってくる。
それを制御するためにホルダーの森に籠もって鍛錬を始めた。
俺の体がマットレスみたいに柔らかいせいだと判断したからだ。
なら体を硬くすればいいだろう、というわけで筋トレに励んだ。
走ったり、腕立て伏せ、スクワット、腹筋運動などなど。
もちろんこれは俺の中で補助してくれる声、テンのアドバイスでもあった。
人族形態を維持するには魔力を消費する。
だから魔法、人族形態を鍛えるためにもその鍛錬を続けた。
たまに安息の魅了にかかった魔物を始末したり、魔物に襲われて危機に陥った冒険者を助けたりもした。
魅了にかからないよう鎧を着て助けた。
それでも俺の素肌を見てしまった冒険者が飛びかかってきたら、静かに魔法で眠らせて森の入口まで送り返した。
そんな日々を3ヶ月弱続けた。
ギルドカードを更新するためにまたギルドを訪れたのが今だ。
ついでに倒した魔物の死体や魔石を売りに来ただけ。
王とまで呼ばれる奴なら大きな魔石を持っているだろう。
機会があれば会ってみたいものだ。
「こちら、依頼された魔石の買取金です。」
イリアがカウンターにハンドバッグサイズの鞄を置いた。
「これは?」
「マジックバッグです。この中にお金が入っています。」
「どうやって取り出すんだ?」
「簡単です。鞄を開いて“取り出す”とイメージすれば中の物が出てきます。」
イリアは実演するように鞄を開けた。
すると鞄から二つの袋が出てきた。
「面白いな。」
「冒険者には必須の道具ですよ。鞄によって容量はそれぞれ違いますけど。」
俺の持ってる次元収納と同じような原理だな。
「こういう能力ってどこで習えるんだ?」
「…能力じゃなくて魔法ですよ。魔法使いが鞄に収納魔法を付与するんです。」
「魔法と能力って違うのか?」
イリアは困ったように額を押さえた。
「私も詳しくは知りませんが…光を作ったり、こうして空間を広げるには魔力が必要なんです。能力は元の身体能力を強化する程度の違いだそうです。」
「もう少し簡単に言うと?」
「要するに、魔力を使うのが魔法、単純に身体を変化させるのが能力です。」
「じゃあ収納魔法を能力でやるのは無理なのか?」
「少なくとも人族には不可能だと思います。人じゃないならともかく。」
なるほど。
今後は自分の能力や魔法について迂闊に見せたり話したりしない方がいいな。
面倒なことに巻き込まれそうだ。
だからここで次元収納を使って全部持って帰るのはやめよう。
近くの冒険者に目立つだろうし。
それは避けたい。
「それにしても、これ全部一人で持って帰れますか?」
「ん?このマジックバッグもくれるんじゃないのか?」
「残念ですがこれはギルドの備品なのでお渡しできません。魔道具屋で買うことをおすすめします。」
魔道具屋か。
「じゃあ袋一つだけ持っていくから、残りは預かってくれるか?すぐ取りに来る。」
「はい、わかりました。」
「ありがとう、イリアさん。」
俺はイリアに礼を言ってギルドを出た。
『テン、聞こえるか?』
テンは返事をしなかった。
理由はわからないが、ホルダーの森を出る少し前から急に黙り込んだままだ。
状態確認はできるが、ちょっと寂しい気分だ。
世界の常識や敵の探知、能力や魔法の提案など色々助かったのに。
時間があるときに方法を探さないとな。
そう思いながらしばらく歩き、古びた木の看板の前で足を止めた。
看板には赤い文字で薄く書かれていた。
「魔道具屋ならここしかないな。」
“ビエラ魔道具商会”と書かれた店の扉をゆっくり押した。
扉が開くとギイギイと音を立てた。
「おい。」
店の中は古びた魔道具がぎっしり並び、その間から一人の女がこちらを見ていた。
茶色の髪をきつく結び、鋭い目つきを俺に向けている。
「先に言っておくけど、この店にはベト型魔道具は置いてないからな。」
褐色の肌に動きやすそうな服装、その腰には短剣が二本下がっていた。
ビエラだ。
今下手に知り合い面をしても信じてもらえるかわからない。
しかも理由はわからないがやたらと殺気立っているように見える。




