第72話
そしてベトではない別の形に変身できるようになった私は、他のこともできるようになった。
自分でも知らなかった能力を試してみたくなった。
でも、今はこれで満足しよう。
まずはここを離れよう。
私は森の中へ、ゆっくりと、しかし確実に姿を消した。
「クエスト通り、薬草を持ってきました」
「まあ、ホルダーの森で採ってきたんですね?」
「森の入口をよく見たら、ありましたよ」
翌日、私はギルドへ向かい、イリアに採取した薬草を手渡した。
迷宮の入口を粉砕した帰り道に、適当に拾ったものだが。
「確認しました。こちらが報酬です」
イリアはそう言って何かを手渡してきた。
「……銀貨10枚?」
「はい、銀貨10枚です」
Fランクの報酬はこの程度か。
「テン、これで何ができる?」
「屋台の串焼きを2本購入できます」
「改めて思うけど、この世界の貨幣価値を知りたい」
「最小単位は銅貨で、銅貨10枚が銀貨1枚、銀貨100枚が金貨1枚の価値です」
アイクにダークベアの報酬を少し分けてもらえばよかったかな。
いや、子どもたちが汗水流して得た報酬を奪うのは、正しい大人のすることではない。
「……そういえば、今日もギルドは閑散としてるね」
「ああ、皆ホルダーの森に戻りましたよ」
「どうして?」
「迷宮の入り口が急に壊れて塞がったそうで」
「なに? 迷宮の入り口が壊れた?」
「はい。そのおかげで魔物たちの暴走行進は当面なさそうですが……一応詳しく調べるため、皆行ったらしいです」
「なるほど……そういうことか」
私は頷いて納得したフリをした。
実は全部知っている。
皆が留守にする時間を狙って来たのだから。
ギルドの周辺でこっそり縮小した状態で人が出て行くのを長く観察していたのだ。
「じゃあ、私はこれで」
「はい、またお立ち寄りくださいね」
私はギルドを出て、テンが教えてくれた串焼きを買いに行った。
屋台からは香ばしい匂いが漂っていた。
串焼きは油がたっぷり染み込んで香ばしく焼かれ、鉄板の上に並べられていた。
「いらっしゃい」
「串焼き一本いくらですか?」
「銀貨5枚だよ」
「2本、お願いします」
串焼き屋の主人は手慣れた様子で、出来立ての串焼きを2本手渡してくれた。
私は銀貨10枚を主人の手に置いた。
「これ、何の肉か聞いてもいいですか?」
「ああ、これはストレートボアの肉だよ」
「ストレートボア?」
「うん、森に棲む荒っぽい魔物だが、見ての通りすごく旨いんだ」
「ご主人が自分で狩って作ってるんですか?」
主人は冗談も大概にしろといった様子で手を振った。
「そんなわけないだろ。ギルドから仕入れてるんだよ」
ストレートボアという魔物は、そこそこ需要がありそうだ。
「旨かったらまた来てくれよ」
串焼き屋の主人の言葉を背に、私は串焼きを手にその場を後にした。
そして、
路地裏の人気のない場所に身を隠し、
鎧の頭部の前飾りをそっと持ち上げる。
ついに食べるときが来た。
串焼きを一口。
「う、うまい……!」
肉汁が口いっぱいに広がった。
油が染みたパリッとした皮と、柔らかい身。
私は一口、また一口と串にかぶりつき、無言で感動した。
この味は間違いなく豚肉だ。
つまり、ストレートボアという魔物はイノシシに近い種なのだろう。




