第71話
肩幅ほどに足を開いて構える。
「自在変化、極限重量化、実行中」
徐々に足元の地面が沈んでいくのが分かる。
「その場ジャンプ、開始」
私はスプリングのように身体を屈め、
思いきり地面を蹴った。
「自在変化、軽量化、縮小、極限硬化」
蹴った瞬間、私の身体は軽く、小さく、硬くなった。
視界がぐるぐると入れ替わる。
まさに矢のように空へと射出された私は、
森を越え、
雲を突き抜けた。
羽毛のように空に舞う私。
「空を飛ぶのも、悪くないな」
「角度調整、目標:迷宮入口」
私は空中でバク転し、テンの誘導に従って身体を迷宮の入口へ向けた。
「迷宮入口に他の生物はいないな?」
「はい。現在、冒険者たちはホルダーの森で交戦中です」
「思う存分、いかせてもらおう」
「自在変化、原型復帰、極限重量化」
目標が定まると同時に、私は全身を広げて重力を増した。
まるで流星のように、
宇宙から地上へ落下する隕石のように。
気のせいか、空気との摩擦熱を感じた。
「気のせいではありません。実際に発生しています」
「マジか……って熱っ!」
「安心してください。ノベト様が燃え尽きないよう空間支配を展開しています」
「助かるけど……マナ足りるか?」
「十分です」
あとは、迷宮の入口に墜落して破壊するだけだ。
この技に名前を付けよう。
両手両足を広げて、
迷宮の中心へと突撃する。
シューティング・メテオ・スプラッシュ!
ドガアアアアアアアアン!!
地面が裂けた。
迷宮入口を囲っていた古代の石造が粉々に砕け、
中心で渦巻いていた黒い魔力の竜巻は激しく揺れた後、
まるで糸の切れた凧のように、空へ四散していった。
精霊粒子と様々な大きさの岩片が空中へ吹き上がる。
「衝撃係数87%。構造物の崩壊を確認。迷宮の標準侵入口、封鎖完了」
私は両手で地面をつき、何とか体を支えた。
「……テン、マナは?」
「解析中。マナ残量97%消費。人型維持時間:残り2分以内。まもなくベトへ戻ります」
「急いで隠れないと……」
草木をかき分ける音が近づいてくる。
そして──聞き慣れた声が響いた。
「この辺りだ! 魔力の爆発はすぐ近くだった!」
ベルゲの声だった。
その後ろから、リアネットとビエラの気配も感じ取れる。
私は空を見上げた。
穴の空いた木々の向こうに、淡い青空が流れていた。
「テン、あと一度だけ跳ぶ」
「安全経路を算出中……完了。右30度方向、小山斜面下に空間を確認」
私はもう一度膝に力を込めて立ち上がった。
そして、静かに、こう呟いた。
「今はまだ……見せられない」
会えば、話すことはたくさんあるだろう。
でも、何をどう話せばいいか分からない。
人族形態の私は、周囲の人に強い“安息の魅了”を与えるらしい。
それを──リアネットが証明してくれた。
エルゼリアやビエラは、そんな私を前に耐えられるだろうか?
間違いなく、混乱を招くだろう。
この状態を制御できる術を探さねば。
それまでは──
ベトのままで、いい。悩むけれど、それが今の結論だった。




