第69話
翌日、私は再びギルドを訪れた。
クエストでお金を稼ぎ、食事をしてみるためだ。
テンによれば、食事を取ることでマナと体力が補充されるとのことなので、試してみる価値はある。
そしてこの“人族変換”を使った今の状態で、やってみたかったことのひとつでもある。
この世界の食事の味はどんなものだろうか。
ベッド──ベトだった頃は眠るだけでよかったが、
今の私は服も食べ物も必要だ。
今はこの鎧があるが、他の服も着てみたい。
なにより、そうした欲求が体の奥底から湧き上がってくるのを感じていた。
「こんにちは、受付嬢さん」
「ノベトさん、いらっしゃいませ」
私は受付嬢に挨拶した。
彼女はその挨拶に爽やかな笑顔で応えてくれた。
「昨日は本当にお見事でしたね」
「何の話?」
「ビッグのことです。あのハゲのビッグ」
「ああ、あいつか」
「Dランクだと威張り散らして、周囲で暴れては問題ばかり起こしてたんです」
「そんな感じだったな」
「でも昨日、彼が目覚めたら怯えた顔で逃げ出したんですよ」
受付嬢が「ハゲ」とまで言うあたり、よほど評判が悪かったらしい。
「でも気をつけてくださいね」
受付嬢は人差し指を立てて言った。
「冒険者同士の決闘は、必ずギルドの仲裁者を通して行わなければなりません」
「じゃあ、昨日のあれは……」
「不慮の事故ということで処理しておきました。周囲の冒険者たちも納得してくれましたし」
「ありがたい、受付嬢さん」
「いえいえ。それと、私の名前はイリアです」
「覚えておくよ、イリアさん」
その後、受付嬢──イリアに、自分にできそうなクエストがないかを尋ねた。
イリアは目を閉じて少し考えてから口を開いた。
「本来Fランクの冒険者ができることはかなり限られています」
「最下位ランクだから仕方ないか」
「それもありますが……初心者に危険な魔物討伐などをさせないためでもあります」
「ふむ。アイクやレイナのようなケースもあるしな」
「はい……そして、今とても大きな事態が起きています」
「大きな事態?」
「昨日ダークベアを倒したホルダーの森に、どうやら迷宮が発生したようなんです」
迷宮。つまりダンジョンか。
イリアの話は続いた。
「迷宮は魔力の変異によって生じる存在であり、
深部にいる迷宮の主を倒さなければ消滅しません」
「つまり、迷宮の主を倒さなければ、ダークベアのような魔物が出続ける可能性があると?」
「はい、その通りです。そして放置しておくと……魔物たちの暴走行進が始まってしまいます」
「暴走行進?」
「強力な魔物が一方向に集まり、進軍する現象のことです」
「つまり……その進軍先がペレオラになる可能性もあると」
そうなればこの町の人々は大変な被害を受けるだろう。
できれば、そんな事態は見たくない。
これは後でテンに詳しく聞いておくべきだろう。
「そのため、冒険者ギルドでは迷宮の探索および処理も請け負っています」
「重要な情報をありがとう。でも、今のところ俺ができる仕事はないのかな?」
「そうですね……いくつか見てみましょう」
イリアは紙束を取り出し、何かを探し始めた。
「落とし物探しの依頼がありますね」
「いいね。内容は?」
「“ベト”を探してほしいという依頼です」
依頼人が誰かはなんとなく察しがついた。
「依頼人と報酬は?」
「ええと、依頼人はリアネットさん。Fランク依頼としては破格の金貨100枚ですね」
とんでもない額だ。ダークベアの10倍だ。
「一体どれほどの“ベト”なんだ、その100枚って……」
「信じられるかは分かりませんが、喋るベトだそうです」
それは──俺だ。




