第64話
「でかいやつ、殺す! お前、引き裂く! 内臓たっぷりだろ? 俺、遊ぶ!」
──魔物との会話はやめておこう。
「だから言ったじゃないですか」
「悪かった」
俺は構えを取り、指を軽く動かした。
「来いよ」
ダークベアは四つ足に力を込めて突進してきた。
もしこれが前世の俺だったら、確実にビビって漏らして一口でやられていただろう。
でも今は違う。
装備している鎧にも硬化──今では自由自在に扱える──を付与できるので壊れる心配もない。
俺は構える。
両手を祈るように重ねて上に構え、
三、
二、
一。
小さくジャンプ。
──ダブルアックスハンドル!
正確にダークベアの頭頂部を狙って振り下ろした両腕の一撃。
何かが砕ける音とともに、ダークベアは地面にめり込むように倒れ、そのまま動かなくなった。
俺は手を軽く払った。
「これでよし」
少年アイクと少女レイナに歩み寄る。
「二人とも怪我がひどいな。見せてくれ」
──万物修復。
ベトフォームにならなくても使えるのは便利だ。
二人は信じられないという顔で自分の身体を確認していた。
「治ってる……!」
「私の魔力も回復してる!」
「これは内緒にしてくれると助かる」
アイクとレイナは深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございます、ノベト様!」
「あなたがいなかったら私たちはもう……恩返しのしようもありません」
「まずは話を聞かせてもらおうか」
「はい、まずはダークベアを処理してからにしましょう」
アイクは剣を抜き、地面にめり込んでいるダークベアの首元を深く突いた。
魔物は微かに痙攣した後、完全に動かなくなった。
その間に、レイナは器用に薪を集めて火を起こしていた。
「ファイア」
レイナの魔法で火が灯る。
「すごいな、炎の魔法ってあるんだな」
「ノベト様、魔法は常識ですよ? ご存知なかったんですか?」
『その通りです。ノベト様の空間支配も魔法です』
「そうなのか、常識か。知らなかったな、ははは」
仕方ない。火とか雷とか、俺の感覚する“魔法らしい魔法”は使ったことがなかったからな。
アイクが手際よくダークベアの体を裂いて何かを取り出した。
「それは?」
「魔石です。魔物を討伐した証拠としてギルドに提出するものです」
魔石か。魔物を倒すとそれが出るのか、覚えておこう。
『覚えなくても、私に聞いてください』
『なんだ、機嫌悪いのか?』
『いいえ、私は感情を持ちません』
『今後も重要なことは全部頼りにするから、よろしくな』
『承知しました』
最近テンがだんだん人間くさくなってきた気がする。
「遅れました。私はアイク、剣士です」
「私はレイナ、魔法使いです」
「改めて、俺はノベト。職業は……騎士ってことにしておこう」
「騎士なのに、武器はどうしたんですか?」
「えっと……壊れたから捨てた」
「そうなんですね」
「で、君たちはなんでこの森に? ここはどこだ?」
「ここはホルダーの森。以前より魔物の出現頻度が増えたため、調査のために来ていました」
──アイクが答えた。
さっきまでタメ口だったのに敬語になってる。いい子だ。




