第57話
「……こういう舞台だったのか……?」
アウロラが低く呟いた。
「テン、あれはなんで出てくるんだ!?」
「精神界の衝突の結果、破壊が起きる前に速やかに決着をつけるため、武器投入による解決方式に切り替わったようです」
「それで正当化されるのか!?」「過去の経験から学習した結果です。ノベト様はレスリング的思考を好まれると判断しました」
「そんなこと言った覚えないぞ!誰の記憶と間違えてるんだ!ベルゲか?スレインか?」
「……いいわね」
アウロラがテーブルを軽く持ち上げた。
リング中央にそれを慎重に立てると、静かに言った。
「ここまで来たら、本気でやろうじゃない」
「……受けて立つよ。もうそれは、ただの家具じゃない。僕たちの感情の貸借対照表だ」
「……その表現は少し変です」「うるさい!一度でいいからカッコつけたセリフ言ってみたかったんだよ!」
「貸借……なに?」
「君もうるさい!」
アウロラが背もたれ付きの椅子を手に突進してくる!
僕は滑るように足を捌いて、
隅に転がっていた脚の折れた椅子を拾い上げ、防御態勢に入る。
ガツンッ!
木材と木材が衝突し、精霊粒子が飛び散る!
だが、僕の椅子の耐久性が弱かったのか、先に崩壊した。
その隙を突いて、アウロラが再び椅子を振りかぶる。
「くっ……なんて力だ!」
無防備な背中でその攻撃を受ける。
痛い。
「まだまだ!」
彼女はよろめく僕を捕まえて、テーブルの上に投げ飛ばす。
今の僕は、まるでまな板の上の魚状態。
「実に的確な表現です」
「わざとだろ!?」「私はノベト様の勝利を願っています」
「なら次の手を……」
僕とテンが口論している間に、アウロラが腹部に強烈な一撃を放った。
「動かないで!」
一度、二度、何度も。
僕は彼女の連撃を避けられず、ただただ疲弊していった。
「容赦ないな……少しは手加減してくれよ……」
「そんな余裕、今はないでしょう?」
アウロラはコーナーポストに登ってポーズを取る。
そして、
勢いよく飛び、肘を振り下ろして僕に直撃させた。
バキッ!
精霊製のテーブルが砕け、
木の粒子が宙を舞う!
「落下を感知。
衝撃係数:87%。
木片13個刺入。
スリープ誘導能力、一時停止」
「終わりにしましょう!」
アウロラが梯子を持ち上げ、全身の力を込めて叩きつけた!
僕はとっさに両腕で防御。
だが、梯子は予想以上に重かった。
ガツンッ!
腕が痺れ、身体が震える。
アウロラはリングの隅に梯子を立てかけた。
「とどめよ」
彼女は梯子を登り、再び飛んだ。
僕は唾を飲み込み、
衝撃に備える覚悟を決めた。
「この身体は、君には渡さない……!」
バンッ!
白い粒子と青い魔力が混ざり合い、
中央に倒れ伏すアウロラが見えた。
彼女の渾身の一撃をぎりぎりで避けた結果、
その衝撃はすべて彼女に返っていた。
轟音が響き渡り、
全ての音が消えた。
息も、感覚も、
意志すら精神界のリングに押しつぶされて消えそうになる。
「精神界への衝撃量が限界を超過。
コア構造の崩壊開始」
聞こえるのはテンの声だけ。
目の前には倒れたアウロラ。
彼女も呼吸を整えていた。
目を閉じ、
口を閉ざし、静かに横たわっている。
「……今なら」
最後の力を振り絞って、
彼女の肩に手を置き、
全身で覆うように固定。
僕のピンフォールに、レフェリーが反応した。
「ONE!」
「……TWO!!」
「……TWO!!」
「……TWO!!」
「……TWO!!」
「……なんで止まったんだよ!?」




