第56話
彼女が脚を引きずって突進、
一瞬、視界から消えた。
どこへ?
答えはすぐに分かった。
肩に重みが乗ったその瞬間、
首が締まり、視界がぐるりと回転する。
──フランケンシュタイナー!
頭頂部から衝撃が走る。
息が詰まった。
「筋反応速度20%低下。
頭部打撃吸収率低下。
注意必要」
「分かってるってば!」
そう、アウロラは強い。
でも、ここで負けたら俺は魔道書の中で永遠に閉じ込められる。
そんなのは絶対に嫌だ。
「まだ終わらない!」
右手を突き、左膝を立てて立ち上がろうとする俺。
しかしアウロラはそれを逃さなかった。
彼女の右足が俺の左膝を踏みつけ、
同時に右膝がこめかみへ突き刺さる。
──シャイニング・ウィザード!
俺は首を後ろに反らしてギリギリ回避。
両手で彼女を押し返す。
反動で彼女はマットの上を転がり、
二回転してコーナーに着地。
手をついて息を整えている。
だが、ここで止まれない。
すぐに距離を詰めて、
腹部へ突っ込む。
右肩を槍のように打ち込む!
「スピアー!!」
直撃。
アウロラはコーナーポストまで吹き飛ぶ!
「有効打!
打撃部位:肩+腹部。
防御失敗判定。
心理的動揺確認」
この一瞬を逃すな!
手首を掴んで、
脚で胴体を押さえる!
固定体勢へ!
「ピンフォール可能!
カウント開始!」
「ワン!」
「……ツー!!」
その時、
アウロラの目が再び閃いた。
「まだよ!!」
腰をひねり、
背中で跳ねるように反転!
俺の胸元を膝で蹴り飛ばす!
「くっ!?」
「ピンフォール失敗。反撃発生。注意」
右腕が素早く俺の肘を巻き取る!
──アームロック!
「くそっ……!このタイミングで!?」
肘が引かれ、
胸が締まり、
バランスが崩れる!
「テン、状況は!?」
「関節テンション73%。
10秒継続で機能低下。
脱出推奨」
「了解……!」
身体をねじり、絡まった腕の方向へ回転!
脚を肩へかける!
アウロラが困惑する!
「まさか……」
「覚えてるか? さっきの借り、返す番だ」
今度は彼女の番だ。
──フランケンシュタイナー!
バシィッ!!
背中からマットへ叩きつける!
アウロラの息が大きく吸い込まれ、
微かに震えていた。
「……やっと分かった」
アウロラが息を切らしながら呟く。
「君がどうして“静かに生きたい”なんて言いながら、こんなに必死に戦うのか」
俺はゆっくりと立ち上がった。
「当たり前だろ。守りたいものがあるからだよ。
静かな生活も、人とのつながりも、俺が過ごしてきた時間も──全部、俺のものだ」
アウロラは目を閉じ、
再び構えを取る。
「……いいわ。
なら、全力で奪いにいく」
マットには精霊粒子と汗が舞い、
息遣いが重なる。
その時だった。
「精神空間ステージ変化感知」
「外部オブジェクト投下開始」
「ハードコア装備出現。フリーバトル形式へ移行」
「……は?」
「今から武器使用可能、ピンフォール制限解除です」
「マジか」
アウロラが静かに呟く。
リングの隅から──椅子が転がり出てきた。
精霊樹素材。
背もたれつき。
頑丈。
美しい。
続いて──ラウンドテーブル。
そして、ハシゴ。
精神世界、いよいよカオス。
「レフェリー、それ反則じゃないの?」
「ノープロブレム。ゴー!」




