第54話
精神が眩むように揺れた。
光のポータルを抜けて意識が転移する瞬間、
僕の中の精霊核がカチカチと警告音を鳴らした。
「強制接続を検知。
精神領域の境界解除。
外部システムが介入中。
重要:接続元、封印魔道書内システム」
「魔道書に……システムがあるのか!?」
「正確には“古代精霊魔法融合型感応書式システム”。
独自の判定ルールを所持。
現在状況を“決闘条件成立”と認識」
「ちょっと待て……決闘って、何の条件を満たしたんだよ!?」
「使用者:精霊核反応率85%突破。
対戦相手:封印残滓存在アウロラ、意識接続中。
両者が同一肉体を巡り、競合状態」
「結論:所有権争い → 伝統的解決方式を召喚」
「まさか……」
ウウゥゥゥン──!
一瞬、周囲が揺らいだ。
そして次の瞬間、僕の足元が確かになった。
弾力のある床。
四方を囲むロープ。
観客席は見えないが、空気はすでに高揚していた。
「……レスリングリングだ、これ!!」
「その通りです。
当該魔道書システムは、“所有権争い時、肉体の主導権をレッスルマッチで決定する”という伝統規約に従います。
通称:リング・オブ・ウィル(Ring of Will)」
「なんでそんなジャンル混合システムがあるんだよ!!!」
ベルゲもそうだったが、精霊とかエルフってレスリング好きすぎない?
まあ、僕もカルロスと戦ったときレスリング技使ったから大差ないか。
そのとき、向こう側から彼女が現れた。
白いドレス。
銀の髪をなびかせ、
自然とロープの間をすり抜けてリングに滑り込んでくるその姿。
──アウロラ。
だが、今の彼女はさっきまで見たものとは違った。
圧倒的なオーラを放ち、
このリングのルールを完全に理解している表情だった。
「ついに来たのね、ノベト」
「来たっていうか、引きずられてきたんだけど」
「魔道書が私たちを選んだだけよ。私はこの舞台を受け入れただけ」
「試合システム起動完了。
ルール:精神世界 1対1 レスリングマッチ
勝利条件:相手をマットに3秒間固定
敗北時:肉体の主導権を永久に相手へ譲渡」
「永久!? 一日交代とかじゃなくて!?」
「備考:アウロラによるシステム設定値の不正改変痕跡を検出」
「おいこのシステム不公平すぎるだろ!!!」
アウロラは静かに微笑んだ。
「古き方式の方が、言葉より確実よ。
私が勝てば、あなたは静かに魔道書に戻りなさい。
この身体は私が使う。ちゃんと大事にするから」
「それを乗っ取りって言うんだよ、アウロラ」
「テンシステム提案:
防御中心の戦術を推奨。
回避重視→感情反応数値上昇→精神リンクの強化可能性」
「……結局レスリングしろってことだな?」
「その通りです。極めて正確な理解です」
僕は絶望して、リングの片隅に背を預けた。
大きくため息をついて心の中で呟く。
「なんだこの滅茶苦茶な展開……どうしてこうなった……」
「励ましモード起動:
ノベト様、あなたは戦えます。
あなたは……精霊樹から生まれたベッドですから」
「その励まし要素どこにあんの!?」
鐘が鳴った。
カン、カン、カン──!
魔道書由来の審判が試合開始を告げる。
もう、始まってしまった。
アウロラの瞳が鋭く光った。
僕は両腕を広げ、構えを取った。
「いいか……この身体の主導権、渡すわけにはいかないんだ!!!」
僕は跳んだ。
いや、正確には弾け飛んだ。
精神世界なのに、このリングは妙に物理感がある。
足裏にはマットの反発力があり、中心軸はまるで地面のようにしっかりしていた。




