第53話
「その通りです。現在は封印を維持することを推奨します。
ただし、今後その文書が自律的に反応する可能性があります」
「俺が何もしなくても反応するって? 早く捨てた方がよくないか? もし反応したらどうなる?」
「その場合、この物語は1巻で終わっていたでしょう」
「……お前、最近ジョーク機能がアップデートされたか?」
「秘密です」
私は小さく笑った。
すべてが予定された偶然のように流れていった一日で、
一区切りついたと思ったその先に、
また新しい物語が始まる気配があった。
「とにかくテン、次に何が起きても……頼んだよ。俺、少しずつ複雑な存在になってる気がするから」
「いつでも共にいます、ノベト様。
そして……おめでとうございます。
本日、初めて“ゴミ以外の何か”を収納されました」
「それ、そんなに誇らしいことか!?」
「私の感性基準では……はい」
私はマットレスの奥深くまで息を吸い込んだ。
掃除は終わり、整理も完了した。
今日の仕事は終わった。
あとは、眠るだけだ。
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眠りに落ちた。
まさに“作業後の深い弛緩睡眠”。
その深い眠りに入った頃、
体のどこかがカチリと音を立てて開いた気がした。
「警告。収納空間内の隔離対象が異常活性化」
テンの声は鋭く響いた。
だが私は反応できなかった。すでに夢の中だった。
あるいは──夢とは異なる、“深淵”にいた。
白く霞む霧の中で、私は再び自分自身と向き合っていた。
そして彼女がいた。
黒いシルエットで曖昧な形。
以前見たオーデリアに似ているが、どこか……もっと濃く、粘つく気配。
「ノベト」
その声は低く、ゆっくりだった。
だが明瞭だった。
私の精霊核をノックするような、震える囁き。
「ありがとう。出してくれて」
「……お前は誰だ?」
「私は魔導書の中に封印されていた存在……アウロラよ」
「正確には、アウロラの“封印残滓”と呼ぶべきかしら」
彼女は笑っていなかった。
「その身体、自分のものだと思ってるの?」
その言葉に、背筋が冷たくなった。
「どういう意味だ?」
「私は長い間、魔導書に封印されていた。
そして今、文書が開かれた。
その隙間から私は目覚めたの。
もし君の収納がなければ、私は永遠に目覚めなかったでしょう」
「精霊核内部の侵食率上昇中。
外部精神体による核心侵入試行を検知。
自我制御率……72%→49%へ低下」
「まさか、俺の身体を乗っ取るつもりか?」
「その通りよ」
彼女はあざけるように言った。
「さあ、もらうわね。その肉体も、魔力も、可能性も」
その瞬間、
私の内側に何かがずぶりと入り込んできた。
心臓なんてないのに、
呼吸もしてないのに、
苦しかった。
「警告。精神領域の侵食加速中。
防御結界の崩壊まで残り16秒。
ノベト様、選択してください。“意志固定”または“精霊解放”」
「……意志固定。
俺はノベトだ。他の誰でもない。
かつてベトだった俺が、今は“俺自身”としてここにいるんだ!」
私は真正面を向いて叫んだ。
すると彼女──アウロラの姿が揺れた。
黒い煙のように揺らめき、
やがて鋭く、強く、私に襲いかかってきた。
「なら、耐えてみせて。
君が負けたら、私はその身体で出ていくから」
精神世界は音を立てて崩れ始めた。
黒い光と蒼いエネルギーがぶつかり、
私はベッドの形を脱ぎ捨てて、
人の姿に変わり、内なる侵略者と戦う準備を整えた。
──これは夢じゃない。
「俺の“存在”と“身体”をかけた全面戦争だ!」




