第52話
混乱は一瞬で収まり、収納空間の出力は安定していた。
箱でも石片でも、割れた瓶でも、魔導スクロールでも、
一つずつ、順番に、私の中に吸い込まれていった。
リアネットは私を見つめながら静かに言った。
「ノベト……本当にすごいです。こんなに短時間で片付くなんて……」
「まあ、これくらいなら……」
私はちょっとだけ得意げになった。
やはり、ベッドにも技術が必要なのだ。
だがその瞬間──
ガキン、と何かが砕ける音がした。
私はテンに短く尋ねた。
「今の何だ?」
「封印された書物の外部ケース1点、破損を確認。
内部には“金属製の黒い文書”が含まれています。
内容は確認不能です」
──ただのゴミじゃなかったのか?
「テン。これは“保管”状態にして。自動分解や浄化は絶対にしないで」
「了解しました。隔離保管を発動。
該当項目は“高位危険群:観察対象”に分類されました」
次の瞬間、息を呑んでいた全員が静かに足元を見つめた。
──床は、綺麗だった。
埃も、蜘蛛の巣も、残骸もすべてなくなり、
ついに地面が露出していた。
そして一人の使用人が壁に手をついて叫んだ。
「そうだ! 領主様が“あの箱があるから掃除は後にしろ”って言ってた!」
「え、今なんて?」
別の使用人が私を見ながら言った。
「その箱にはすごく危険な物が入ってるって……いま思い出しました」
「でも、ノベト様が片付けてくれて助かりましたね! ハハハ!」
……故意でないことを祈る。
まあ、もう片付いた以上どうしようもない。
リアネットは笑いながら私を撫でた。
「ノベト様、本当にお疲れさまでした」
「じゃあ、部屋に戻らせてもらうよ」
こうして私は屋敷の掃除を完了し、部屋へと戻った。
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「テン。さて……吸い込んだ物の整理を始めようか」
「収納リストを整理します。
合計312件のうち……主要アイテム7件、隔離保管対象1件、
未解析の不明物体3件、特殊反応品2件……」
「ちょっと待て。不明物体が3つも? それって何だよ」
「現在も解析不能です。
形状は紙に類似していますが、魔法的抵抗が非常に高くスキャンが通りません。
情緒的には“不快感”を引き起こす構造。一件は生物反応あり」
「……もっと分かりやすく話せない?」
「申し訳ありません。感情対応アルゴリズムは開発中です」
私は目を閉じた。
この収納空間が本当に“無限”だと証明でもするかのように、
妙な物が次から次へと試してくる。
「分かった。順に見ていこう。特殊反応からな」
「特殊反応1件目:魔力を纏った小型の結晶箱。
開封すると微弱な魔力が発生。
注意事項:リアネットが近くにいると心拍数が上昇。
推奨対応:封印継続」
「リアネットに関係ありそうだな……そのまま封印しておこう。次」
「特殊反応2件目:“古びたふわふわのぬいぐるみ”。
反応はありません。
ただし……抱きしめたくなる衝動を引き起こします。
収納時、使用人の一人が“うわ、かわいい!”と叫んだ記録あり」
私はマットレスをわずかに震わせるほどのため息をついた。
「テン。これは……俺が持つべき物じゃないな。
その使用人に渡してくれ」
「“危険性はないが抗いがたいかわいさ”と判断。
異常項目の解除、外部譲渡として登録します」
「助かった。さて、問題の“アレ”だ。金属製の黒い文書」
テンの声がわずかに低くなった。
無機質な音声でも、何となく“気配”がある。
「該当文書は現在も魔法的封印中です。
表面は古代精霊文字に類似した魔法記号で覆われ、
接触時に魔力吸収反応および“記憶逆流”現象の可能性があります」
「……記憶逆流? それって何だ?」
「簡潔に言うと、“開封時、誰かの記憶が流れ込む可能性がある”ということです。
その“誰か”は──この品を最後に使った者か、作った者のいずれかです」
「……開けたら、何かが始まりそうだな」




