第51話
「……この無限収納を“ゴミ箱”として使うって思わないでよ。僕はゴミを詰めたらすぐ捨てに行くから」
その言葉に、リアネットは一瞬きょとんとしたが、
ぷふっと笑い出した。
「分かってます、分かってます! ゴミ箱じゃなくて、万能精霊ベト様って呼びますね」
「長い……ノベトでいいよ」
「じゃあ今日の夕方、私が案内します。東の廊下には片付いてない部屋が三つあるし、会議室の横にも建築残骸が残ってます」
──やれやれ、ノベトだけどノベトの人生はなんて多様なんだ。
「システム通知:作業対象総数 約280項目。魔力消費量 計算中……」
テンは私の頭の中で軽く計算を始め、私はその声を聞きながらマットレスの上で少し力を抜いた。
屋敷一つをまるごと綺麗にすることには、大きな意味があるかもしれない。
そして私は──それを、ベトとして成し遂げるつもりだ。
その日の夕方。
私は縮小した姿でリアネットの手に運ばれ、屋敷の外から清掃を始めた。
使用人たちはただ、瓦礫の破片が次々と私の収納空間に吸い込まれる様子を見つめていた。
綺麗になった屋敷の外観を眺めた使用人の一人が、私を見てぽつりとつぶやいた。
「欲しい……」
──聞かなかったことにしよう。
リアネットの言った通り、東廊下にある散らかった部屋三つと会議室横の建築残骸もすべて処理した。
屋敷の大半を綺麗にし、あとは一部屋だけを残すのみ。
私たちはその扉を開けた。
──目の前に広がるこの光景、壁には蜘蛛の巣がクリスマスツリーのように垂れ下がり、
床には錆びた斧、崩れた木箱、呪われていそうな金属片が転がっていた。
これはもう倉庫というより、何かの襲撃現場だ。
「ここが……倉庫です」
「カルロスがここも襲ったのか?」
「……いえ」
リアネットは気まずそうに目をそらした。
使用人の一人が隣の者を小突いた。
「お前、ここフェレオラ様の非常食倉庫って言ってたよな?」
「そ、そう聞いてたけど……記憶よりひどいな……」
食料があったとしても、こんな場所じゃ誰も食べたくない。
「ともかく、これで最後の清掃になるな」
そのときテンが言った。
「精密分類結果:有機物31%、金属類42%、魔力痕跡ありの分解不可破片5点……
警告:うち2点、生命反応の可能性あり」
「ちょ、ちょっと待てテン。今なんて言った?」
「非魔法性生体反応、一部破片から検出。『長い間、待っていた何か』である可能性」
「“長い間、待っていた何か”?!」
私は周囲に尋ねた。
「この中で、触っちゃいけない物があるって知ってる人いる?」
リアネットと使用人たちは考え込んだが、首を振った。
「分かりません……ノベト、大丈夫でしょうか?」
彼女は少し心配そうに問いかけた。
「まあ、何とかなるだろう」
そう言って、私はフレーム下部の収納口を開いた。
カチッ。
空間の裂け目が開き、異次元の吸引圧が周囲を巻き込む。
その瞬間だった。
「うわぁああっ! なんだこの風!」
「天井の蜘蛛の巣が飛んでくぞ! 気をつけろ!」
「ちょ、待て俺のズボン……うわあああっ!!」
一人の使用人が慌ててよろけた拍子に、吸引口の正面に入り込み、ぐるぐると回転し始めた。
私は慌ててテンに叫んだ。
「出力下げろ! 一般人まで吸い込むな! 尊厳が崩壊する!」
「出力40%へ調整中。範囲内の生命体検出時、自動遮断モード有効化。
※ただし、衣服の紛失に関する責任は負いません」
「それは俺もごめんだ!!」




