第47話
カルロスはふらつきながら立ち上がった。
体は埃まみれ、服は裂け、あの傲慢さはもはや消えていた。
その顔に残っているのは、恐怖と混乱だけだった。
──本当に、しぶといおっさんだな。
「そろそろ……諦めてくれよ」
私がそう言った瞬間、カルロスは叫び声を上げて腕を振り上げた。
その目はもはや“理性”の色をしていなかった。
完全に獣だった。
「……うおおおおおおああああああッ!!」
黒い魔力が暴走するように噴き出した。
部屋の空気がうねり、壁が割れ、床がひび割れる。
フェレオラが叫ぶ。
「気をつけろ! 今までとはレベルが違う!」
ビエラも短剣を構えた。
「ノベト、逃げて!」
私は一歩も退かなかった。
「俺は平気だ。みんなは下がってろ」
カルロスは全方向に闇の弾を撃ちまくった。
私は地を転がりながらそれらをかわした。
避けて、避けて、そしてさらに避けて。
「死ねえぇぇぇぇぇ!」
彼は突進してきた。
黒い塊のような腕を振り上げ、私へ向かって飛びかかってくる。
私はその手首をつかんだ。
捻った。
骨が砕ける音と共に、カルロスの叫び声が響いた。
そのまま、私は彼の身体を担ぎ上げた。
これで、終わりだ。
──ノベト式、最終奥義。
「グランド・ベッド・ドライバー」
カルロスが絶叫する。
「ぎゃあああああああッ!!」
彼の手首と腰をがっちりと固定し、
私は跳躍と同時に回転した。
「よく眠れる準備はいいか?」
彼の頭部を真下へ──
全身の重量を込めて、叩きつけた。
轟音が鳴り響き、部屋が揺れた。
埃と破片が舞い上がる。
その中央で、私はゆっくりと立ち上がった。
カルロスは倒れたまま、もはや動かない。
意識はあるが、もはや抵抗する力は残っていなかった。
私はそっと言った。
「熟睡歓迎だ。いい夢を見てくれ、カルロス」
フェレオラとビエラは、呆然と私を見ていた。
「何が……起きたの?」
ビエラがぽつりとつぶやく。
フェレオラも口を開いた。
「……君は、一体……何者なんだ?」
私は静かに答えた。
「ノベト。職業、精霊のベッド」
カルロスの部下たちはすでに逃げ去っていた。
残った者は投降し、フェレオラの兵士たちが拘束した。
──これで、戦いは終わった。
私は心の中でテンに問いかけた。
「この状態、あとどれくらい持つ?」
テンは淡々と返す。
「不安定な状態。残りおよそ……1分未満」
「だよな。楽はさせてくれないってことか」
私は苦笑した。
残る力を振り絞り、二人に向かって言った。
「後片付け、よろしく頼むよ」
身体が徐々に透けていく。
魔力が消え、光が散って──
私は再び、“ただのベッド”の姿へと戻った。
***
戦いは、終わった。
カルロスは拘束され、
廃人のようにぶつぶつと何かを呟きながら運ばれていく。
哀れすぎて、もはや哀れみにすら値しない。
だが、それも当然の報いだと思った。
私は黙っていた。
……いや、今は話せないだけだ。
今の私は、再び首飾りの姿に戻っていた。
ビエラがそっと、私を手に取った。
その手は、優しく、あたたかかった。
「ノベト……お疲れ様」
私は軽く返した。
「仕方なかっただけさ。本来ベッドって、黙って寝かすのが仕事だからな」
ビエラは微笑んだ。
「言うよね。でもさ、楽しかったんでしょ?」
「気のせいだよ」




