第46話
私は現実へと戻ってきた。
床にドサリと落ちた。
カルロスは信じられないという顔で私を見下ろしていた。
「……ありえん」
私は床に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。
身体に違和感があった。
自分の姿を見下ろすと、長い手足、固まったようなフォルム。
形は人間だが、どこか歪で荒削りな印象だった。
「これが……俺?」
口が、ある。声が、出た。
テンがいつも通り淡々と話す。
「魔導核の変異による不完全な人型転移。持続時間は不安定。
推奨事項:即時適応および有効活用」
はいはい、分かってますとも、親切なテンさん。
フェレオラ伯爵が狼狽しながら呟いた。
「なんだあれは……カルロスが作った新たな怪物か?」
「ノベト、あなたなの……?」
ビエラが驚いた目で私を見ていた。
「うん。どうしてこうなったのかは、あとでゆっくり話すよ」
カルロスは鼻で笑いながら手を振った。
「何か真似してるつもりかもしれんが、偽物が本物になれるわけではないぞ?」
私は黙って肩を回す。
中身のない身体。でも、どこか馴染む。
動ける。戦える。
カルロスが叫び、黒い魔力弾を放った。
「はっ!」
私は反射的に体をねじってそれを避けた。
そして──走った。
地面を蹴る。
信じられない推進力。
一瞬でカルロスの目の前に飛び込んだ。
カルロスが慌てて防御結界を張る。
「さあ──始めようか」
私はあの店でベルゲたちがやっていたことを思い出した。
彼らの戦いぶりは楽しそうだった。
そして……テレビでもよく見た。
私は腰を落とし、
カルロスの胴を抱え込んだ。
──プロレス技の一つ。
スパインバスター。
「な、何っ……!?」
カルロスが混乱する暇もなく、
私は彼の体を持ち上げ、
思いきり地面へ叩きつけた。
ゴッ。
部屋全体が揺れた。
床に大きなひびが入る。
私はそのままカルロスを押さえ込み、
低く囁いた。
「ようこそ、俺の世界へ──カルロス」
彼はもがいたが、
私は拳を握り、その顔面に叩き込んだ。
防御結界が弾け飛び、
カルロスが血を吐いた。
ビエラが念話で叫んだ。
『ノ、ノベトが……あんな戦い方を!?』
フェレオラも目を見開いていた。
「何が起きている……?」
カルロスが血を吐きながらも起き上がった。
「くっ、貴様ァ……!」
もう気絶したと思ったが、まだ動けるらしい。
彼の手に黒い魔力が集まり始める。
私は間合いを詰め、ジャンプ。
その首に腕を回した。
「次は……クローズライン。いや、スープレックスだな」
私は腰をひねり、カルロスを頭から後方へ──
投げ飛ばした。
ズン。
完璧なジャーマン・スープレックス。
カルロスがふらつきながら立ち上がろうとする。
「くっ……この……バケモノが……!」
「いや、まだだ。あなた、耐久力だけはすごいと思うよ?」
私は再び踏み込み、
その喉元を掴んだ。
──チョークスラム。
カルロスは三度、床に叩きつけられた。
ゴキッ。
床に亀裂が広がり、兵士たちは一斉に息を呑んだ。
ビエラが小さな声で呟いた。
『ノベト……ちょっと……怖い……』




