第44話
カルロスが私の目の前に立った。
彼は絶対空間をじっと観察し、眉をひそめた。
「……妙だな」
彼がつぶやいたのは、苛立ちではなく“理解不能”という種類の混乱だった。
そして視線をビエラに移す。
「まさか、これは……?」
その瞬間、フェレオラが剣を振るった。
鋭い斬撃が空気を裂き、カルロスは一歩後退してそれを避けた。
それが合図となり、兵士たちが一斉に突撃した。
盾を構えて正面から押し出し、背後からは槍が突き出され、脇からは包囲が迫る。
完璧な連携。だが──
カルロスは片手を振るだけで、前方の兵士を壁に吹き飛ばした。
槍は届く前に砕け、側面攻撃も通じなかった。
「くだらんな」
彼がつぶやくと同時に、黒衣の部下たちがなだれ込んだ。
爆発的な魔力と剣戟の衝突。
盾は溶け、刃は弾かれ、混沌が屋敷内に広がった。
ビエラは舞うように敵を翻弄し、短剣で応戦した。
私は彼女を追い、絶対空間で護りながら支援する。
彼女の念話が届く。
『ノベト!』
「分かってる」
私は絶対空間の壁を動かし、ビエラの動線を守るように展開する。
そこに一発の魔力弾がビエラを狙って飛ぶ。
私は空間を展開し、弾を遮断。
爆発の衝撃を押し返し、ビエラは一切止まらずに前進した。
彼女の短剣がカルロスの腕をかすめ、血飛沫が舞った。
カルロスは笑った。
「面白いな……」
そう言って、掌に魔法陣を浮かべる。
室内が一瞬で闇に覆われる。
「ノベト!!」
皆の声が同時に念話で届いた。
私は目を閉じ、魔導核に集中する。
絶対空間が共鳴し、魔法陣を撥ね除けるように光が放たれた。
光が爆ぜ、闇の結界が乱れ、敵の術が崩れる。
兵士たちも立て直し、一人の部下が討ち取られ、別の者が負傷した。
ビエラとフェレオラもそれぞれ敵を撃退していた。
「やった!」
ビエラが声を上げた。
──だが、その刹那、カルロスの笑みが消えた。
「……思ったより手間だな」
その声に混じる冷徹な響き。
彼はついに“本気”を見せ始めた。
手を伸ばすと、空気が重く沈む。
黒い魔力が空間に渦巻き出す。
それは攻撃ではなかった──“儀式”だった。
カルロスは振り向き、部下たちを招いた。
「来なさい」
負傷した部下がためらいながらも歩み寄る。
私は直感的に“最悪”を感じ取っていた。
カルロスがその肩に手を置いた瞬間──
部下の身体がねじれ、肉が裂け、血が吹き出す。
「か、カルロス様……!?」
「感謝します。あなたたちの犠牲で、力は満ちます」
指を鳴らす。
部下たちの肉体が爆ぜ、黒い魔力の塊となって空間に漂う。
狂気の術式。
──マナのために、部下を素材として使った。




