第29話
「ノベト、お願いね」
「もちろん、任せてくれ」
「ハッタリじゃないなら……」
エルゼリアは迷うことなく右手で受け取った短剣を、左肩に深々と突き刺した。
赤い血がにじみ、やがて肩を伝って床に滴り落ちる。
「お嬢さん、正気か!? 何をしているんだ!」
「エルゼリアです。証明しているんです」
そう言ってエルゼリアは短剣を抜き、そのまま私の上に崩れるように倒れ込んだ。
彼女の肩にあった深い傷は、私のスキル「熟睡超回復」によってすぐに癒されていく。
──セールスポイントその2、即回復可能なヒーリングアイテム。
さらに私は「空間浄化」を発動し、マットレスと床に落ちた血痕をきれいに拭い去った。
──セールスポイントその3、洗濯不要の清潔設計。
おまけに店内の埃まで除去されたのはサービスだ。
呆然としていたビエラの前で、完全に回復したエルゼリアが起き上がり、静かに言った。
「これで、信じていただけますよね?」
ようやく我に返ったビエラは目を細め、にやりと笑った。
「……金貨5枚。それでどうだ?」
なんてこった。ここまで証明したのに、その値段は安すぎる。
「金貨20枚。それだけの価値はあります。それ以下では売れません」
「……根性あるね」
数秒の沈黙の後、ビエラは手を差し出した。
「よし、20枚で決まりだ」
エルゼリアは金貨の入った小袋を受け取り、最後に私に近寄った。
「ありがとう……そして、本当にごめんなさい。こうして手放すことになって……」
私は静かに見つめて言った。
「大丈夫。またきっと会える。村の皆によろしく伝えてくれ」
それを聞いたビエラが、ぽつりと漏らした。
「まるで……このベッドと話してるみたいだな」
「はい。生きています。意識も、感応もあります」
「そうかい。名前はあるのか?」
「ノベトです」
「そう……ノベトか」
ビエラはフレームの木目を優しく撫でると、静かに店を出ていった。
──しばらくして。
一人になったビエラは、こらえていたかのように突然笑い出した。
そして、引き出しから取り出したのは一枚の貼り紙だった。
『ペレオラ領主の一人娘を治療できる者を探しています。特別報酬あり』
「しばらく……店は休業だね」
***
その夜、私はビエラの私室に移されていた。
「ふう……今日は大変だったな」
彼女の部屋の棚に並ぶ魔道具の光がぼんやりと瞬いている。
ビエラは、元の形に戻った私のフレームを指で軽く突いた。
「おい、生きてるんだろ? 感応するって言ってたし、あの子も見せてくれたけど……私は自分の目で確かめないと気が済まない」
──おとなしくしていよう。もう“商品”として売られた以上、今は従っておいた方がいい。
「よし、今夜はお前の上で寝てみる。できればこの体の古傷も治ってくれると嬉しいけどな」
そして彼女は宣言する。
「言っておくけど、私は寝る前には必ず全部脱ぐ主義なんだよね」
……は?
ビエラは腰のベルトを外しながら、こちらをじっと見下ろしてきた。




