第28話
夕焼けに染まった空の下、エルゼリアと私は静かに歩を進めていた。
フェレオラの町外れの路地。昼間は賑わっていた通りも、日が沈むとまるで別世界のように変わっていた。
狭く曲がりくねった石畳を進む間、私はエルゼリアの首元でリズミカルに揺れていた。
道中、何軒かの店を訪ねた。
「ん? これはベッドか? エルフのお嬢ちゃん、こんな物は家具屋へ行きなよ」
「ここに寝たら回復するって? 嘘つくなら衛兵を呼ぶぞ!」
「この大きさじゃ金貨1枚にもならんな。薪にして売った方がマシだろ」
「お嬢ちゃんも一緒なら10枚払ってやってもいいぜ、うひひっ」
──どいつもこいつも、変な奴らばかりだった。
私のセールスポイントを理解しようとしない愚か者どもめ。
薄暗い路地を進み、私たちは古びた木の看板の前で足を止めた。
「ここが……最後の店よ。もしここでも駄目だったら……」
「心配いらないよ。今回は何が何でも売ってみせるさ」
看板には赤い文字でこう書かれていた。
「ビエラ魔道具商会」
エルゼリアは慎重に扉に手をかけ、ゆっくりと押し開いた。
軋む音が辺りに響く。見渡せば、金属、古びた魔石、埃……この店が長く放置されていたことが一目で分かった。
「おや、こんな時間に客か。久しぶりだね」
「あなたがビエラさんですか?」
「この店にいるのは私だけだよ」
店内にはびっしりと魔道具が並んでおり、その隙間から一人の女性がこちらを見ていた。
彼女こそが店主・ビエラに違いない。
栗色の髪を後ろで縛り、鋭い目つきをしたその女性は、すべてを見透かすような視線で私たちを見ていた。
小麦色の肌には古い傷跡が刻まれており、腰には2本の短剣が揺れている。まるで歴戦の盗賊のようだった。
彼女はゆっくりと指で首筋をなぞりながら、体を後ろに預けて言った。
「で? 探し物でも?」
エルゼリアは私を首から外し、そっと床に置いた。
「これを……売りに来ました」
「売る? これを? ……ベッドの模型?」
ビエラは私とエルゼリアを交互に見て、鼻で笑った。当然だ。
「エルフのお嬢ちゃん、頭大丈夫かい?」
今までは常に“家具”として売ろうとしてきた。つまり、本来の姿を見せていただけだった。
だが今回は違う。セールスポイントを全力で示す時だ。
「うわっ、何だこれ!」
私は能力拡張を使って、身体をダブルサイズに広げた。
──セールスポイントその1、どこにでも携帯できる利便性。
「ふむ……面白いね」
ビエラは無造作に近づき、私の表面を叩いて音を確かめた。
トン、トン、と木の音が店内に響く。
「精霊樹でできてるのか。珍しくはあるけど、まぁ普通だな」
「違います。これに寝るだけで、どんな状態でも回復できます」
エルゼリアは一歩踏み出し、毅然とした声で言った。
その言葉にビエラの目が細くなる。
彼女は私の周囲をゆっくり回りながら、指先でフレームを撫でた。
「お嬢ちゃんの言う通りなら、これはすごい代物だ……」
「私の名前はエルゼリアです」
ビエラは鋭い視線でエルゼリアを見据えた。
「そうかい、エルゼリア。だが、口先だけじゃ信じられないね」
「あなたの短剣を貸してください」
「は?」
「証明します」
震える声だったが、確かな覚悟があった。
ビエラはしばし無言で彼女を見つめた後、ふっと笑って腰の短剣を一本抜き、彼女に差し出した。




