第26話
町の衛兵たちが店に駆け込んできた。
騒ぎの通報を受けて来たようだ。遅れてやってきた衛兵隊長は店内を見回し、呆れた表情で言った。
「ここで戦争でもあったのか? いったい何があったんだ?」
「隊長! 私から説明させてください!」
さっき泣きそうな顔で隠れていた店主が、さっと前に出て事の顛末を語った。
俺たちが酒と料理をたくさん注文したこと、乱暴者の冒険者たちが絡んできたこと、そして……。
「この耳長どもが店をめちゃくちゃにしてくれました!」
「なんだと!? ひっく、正当防衛だぞ!」
「まあまあ、落ち着け酔っぱらい共。俺はフェレオラの衛兵隊長として、こういう事態は収拾しないとならん」
隊長は鼻を軽くこすりながら続けた。
「で、あの連中をああやって壁に飾りつけて、店の壁と窓とテーブル壊したのは誰だ?」
「ひっく……俺たちだ」
「だよな。よし、善良な町民の財産を破壊した罪でお前らを連行する」
──ベルゲたちはあっさりと拘束された。
『ベルゲ、手持ちの金でなんとか解決できないの?』
「仕方ない……隊長、ひっく、話がある」
「なんだ?」
「我々に金がある。これで済むなら、そうしてくれないか」
「まあ、罰金で済ませるという手もある」
ベルゲは満足そうに拳を握り締めた。
隊長は店主と相談しながら言った。
「では……料理代と修理代、それから罰金を合わせて……だいたい金貨15枚になるな」
『今、いくらあるの?』
「ひっく……金貨9枚……」
「残念だが、全員牢屋行きだ」
──こうして、人生初の人間の牢屋体験が始まることになった。
『ベルゲ、どうすんのこれ?』
「……ひっく」
『周りは気にしなくていいから、独り言でも何でも言ってよ! このまま牢屋行きで、いつ出られるのさ!』
「……エルフの時間は人間より長いから、しばらく籠ってても平気だし……」
──このエルフ、寿命を言い訳に牢屋でのんびりするつもりか!?
『あんたが言ったじゃん! 村に物資を持ち帰るのが最優先だって! このままでいいの!?』
「うっ、それは……」
「おい、ブツブツ言ってるのはやめろ。行くぞ」
こうして牢獄へ向かうことになった。
牢の中は冷たい空気に満ちており、鉄格子の隙間から月明かりだけが差し込んでいた。
10人の筋肉エルフが狭い空間にぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
他の牢には、湿った床に寝転がる者、腕を組んで壁に寄りかかる者。
静寂だけが漂い、唯一聞こえるのはホレイルのいびきだけだった。
『……ベルゲ、街の裏側まで見せてくれるのは嬉しいけど、まさか牢屋まで案内されるとは思わなかったよ』
「うぅ……」
俺はベルゲの首にぶら下がりながらぼやいた。
まだ酒の抜けてない仲間たちは肩を寄せ合って座り込んでいた。
「はぁ……まさかこうなるとはな」
モレスが顎を手に乗せて溜息をつく。
「俺たち、悪くないだろ! 先に酒ぶっかけたのは向こうだぞ!?」
パンテエルは今も納得いかない様子。
「で、テーブル壊したの誰だっけ……?」
「……俺だ」
「壁は?」
「スレイン」
「窓は?」
「……俺」
振り返れば、血飛沫に染まったテーブル、壁に埋まった不良ども、そして“だった”窓……
反省というより反芻モードに突入していた。
『今頃、村の皆は、俺たちが物資を買って帰ってくるのを待ってるよな……』
全員、無言で視線をそらした。




