第20話
「面白い発想じゃない。鍛錬のためでしょ? 私も手伝おうか?」
「よくご存じで……」
「なんでいきなり敬語?」
オーデリアが無表情でこちらを見つめている。……大丈夫、まだ怒ってはいない。そう信じたい。
「そ、その……言ったじゃないか。世界を見て回りたいって。だから俺は仕方なく……」
オーデリアの表情が次第に曇り始める。
「誰か助けて!」
慌ててエルフたちに助けを求めた。
「すまない、ノベト。我々は精霊様の恩恵で生きておるゆえ、逆らえないのだよ」
村長が残念そうに首を横に振る。立場があればこそ、できないこともある。仕方ない。
「少し、お待ちください!」
そのとき、私とオーデリアの間に立ちはだかるエルフがいた。エルゼリアだ。
「なんだい、小娘エルフ?」
「その……ノベトさんは村を救ってくれて、そして精霊様も助けてくれた方です」
「だから?」
「いくら精霊様でも、ノベトさんが困ることをするのは……よくないんじゃないかと……」
「オレイン、あなたの孫娘は生意気ね」
突然、体に異変が起きた。ベッドの脚と背もたれ部分から枝が伸びて、エルゼリアを縛り上げた。
「エルゼリア! ……オーデリア、これ何なの!?」
「言ったでしょ? あなたは精霊樹で再構成されたの。精霊樹は私の一部、つまり私が制御できるって当然よ」
「それはともかく、彼女を解放して!」
「嫌よ? 生意気なエルフの子に、誰が上か教えてあげてるところなのに、邪魔する気?」
「……分かった、一緒に行くよ」
「ノベト……ダメです。それはあなたの望んだことじゃないでしょう」
エルゼリアが木に絡まれながらも、かすれた声で言った。
「私、あなたが精霊樹の問題に挑んでいたとき……何もできずに無力さを感じてました。でも今なら、少しは力になれる気がして……」
「ちょっと脅かすだけのつもりだったのに……」
オーデリアが手を上げると、枝がさらに強く締め上げようとする。
このままではエルゼリアが押し潰されてしまう。
「せっかくの祭りの夜だっていうのに、あんまりだよ、オーデリア」
私は能力融合を最大限に使った。すると、体が溶けたアイスクリームのようにぐにゃりと崩れていく。
伸びていた枝もぐにゃりと地面に落ち、縛られていたエルゼリアは解放され、大きく息を吐いた。
「なにこれ?」
「君と一緒にいたいという気持ちはありがたい。でも、他の命を犠牲にしてまで強制するなら、俺も抵抗する。精霊様が魔物と同じような行動を取るのなら……オーデリア、君は“精霊”だろう?」
沈黙が落ちる。オーデリアと私は睨み合い、場が凍りつく。
誰かがごくりと唾を飲み込む音すら響いた。
……魔物の次は精霊か。今度ばかりは自信がない。
「冗談だよ、ノベト。そんなこと本気でするわけないじゃない。私はノベトに嫌われたくないもん」
オーデリアがにっこり笑いながら、何事もなかったように言う。
張り詰めていた空気が、力なく解けていく。
彼女は倒れていたエルゼリアを起こし、肩をポンポンと軽く叩いた。
「うん、エルゼリアって言ったね? 精霊を前にしても堂々としてて、いい感じ。これからに期待してるよ」
「は、はいっ……」




