第19話
村ではお祭りが開かれていた。
魔物の襲撃から解放されたエルフたちは歓声を上げ、酒と料理を楽しんでいる。
最初は誰も信じなかったが、村長が「もう汚染はない」と改めて確認したことで、皆が安心と解放感を得て、祭りを始めたのだった。
「飲め飲め!」
「祭りだ!」
雰囲気はすでに最高潮に達していた。
そして、そんな中で俺は何をしていたかというと──
「さあ、やってみなよ」
「うおお! 壊れろぉぉ!」
俺を薪にしようとしていたエルフたちから、今は“修行”と称した挑戦を受けていた。
みんな斧を手に力いっぱい俺に叩きつけてくる。
俺は硬化スキルで身体を固くして、それを受け止める。
バカバカしく見えるかもしれないが、これは“硬化”の訓練の一環だ。
今後何が起こるか分からない以上、少しでも時間がある時に鍛えておきたいのだ。
「ちくしょう、もうやってられるか! 酒だ酒!」
意気揚々と俺に挑んできたエルフも、何度も斧を振るった末に肩で息をし、ついには諦めて酒を飲みに行った。
これで最後の挑戦者のようだ。
体には思ったほどダメージがなかった。
職業が変わったせいか、以前よりも耐久性が上がっている気がする。
これなら今後、魔物の攻撃くらいなら“硬化”で十分に耐えられるかもしれない。
「さあ、皆の者、注目!」
突然、村長が声を上げて場を仕切った。
皆の視線が村長に集まる。右手には杯が握られている。
「我々は長い苦しい時代を生き抜いてきた。そして今、この瞬間がまるで夢のように感じられる。
皆、絶望し、苦しんできた……」
あるエルフはその言葉に涙ぐみ、思いにふけっていた。
「だが! あの奇跡の精霊が、精霊樹の汚染を解き、我々に平和をもたらしてくれた!」
奇跡の精霊……そんな大げさな存在じゃない。
ベルゲと陽気な仲間たちが戦ってくれたおかげだ。
「さあ、彼を称えよう。その名は──ノベト!」
……冗談だろ。
「ノベト! ノベト!」
「やめてくれ、恥ずかしいってば。あと、村長さん、俺は精霊じゃないよ」
「いや、何があったかは知らんが、今のお前からは精霊の気配が感じられるぞ」
そういえば職業が“精霊のベッド”に変わってたっけ……そのせいか。
「認めるんだ、ノベト。君はこの村の奇跡だよ」
「ベルゲ……」
「本当にありがとう、ノベト」
「エルゼリア……」
「そう、君は私と一緒に生きるべき存在」
「オ、オーデリア……?」
突如として現れた精霊オーデリアの言葉に、場の空気が一気に静まり返った。
「せ、精霊様!」
全てのエルフが彼女の前に跪き、敬意を表する。
「今日はお祭りなんだから、そんなにかしこまらなくてもいいよ。皆、自由に楽しんで」
「え、いつからいたの? てか、どうしてここに?」
「うーん、さっきノベトの“薪割り大会”してた頃からかな?
ノベトの身体は精霊樹の力で再構成されてるから、私はノベトを感じ取れるの。
ここは私の領域だから、来るのは簡単なのよ」
オーデリアはにこやかに微笑む。
だが、それは内心の怒りを必死に押し殺した微笑みにしか見えなかった。
……え? 精霊樹で作り直されたってことは、俺はもうオーデリアから逃げられない……?
逃走不可宣言……?
それより問題は、どうすればこの怒りを爆発させずにやり過ごせるか、だ。




