第18話
暗かった空間は真っ白に変わり、さっきまでいた幼い少女は若い女性となって、目の前に現れた。
銀色に輝く長い髪に月桂冠、陶器のように白い肌、きらめくエメラルド色の瞳、絹のようなワンピースを身にまとったオーデリアが、私に優しく微笑みかけてくる。
「もう少し寝なくても大丈夫?」
「本当はもっと寝ていたいけど、片付けなきゃいけないことがあるから目を覚ましたんだ」
「じゃあ、完全に回復するまで私を使って」
「ありがとう」
オーデリアは私の上にふわりと横たわり、軽く伸びをした。
「外にいた魔物たちはもう片付いたの?」
「うん、もう森には危険はないよ」
これで一段落ついた。でも、気になることがある。
「ねえ、ここに来る途中、一緒だったエルフたち……あの子たちは無事かな?」
「大丈夫だよ。魔物に傷つけられたけど、さっき私が治療しておいたから」
「本当に!? さすが精霊様……ありがとう、オーデリア」
「だから、名前で呼んでってば」
仲間たち──ベルゲとその陽気な仲間たちが無事だと聞いて、これほど嬉しいことはない。
ならば今は、オーデリアの話に集中しよう。
「エルフたちの話によると、10年前から精霊樹が汚染されていたって聞いたけど……どういうことだったの?」
「いつからだったのかは私にも分からない。突然、闇が私を覆ってきて、私の魔力を勝手に吸い取って利用していたの。休むこともできず、すごく疲れて、ほんとにつらかった……」
「これからまた同じことが起きる可能性は?」
「自然に起きたものとは思えないわ。この異質な闇には“悪意”があったから」
悪意……つまり、誰かが意図的に精霊樹やエルフたちを傷つけようとしていたということか。
だが、理由は分からない。俺はまだこの異世界のことを完全には理解していない。
まあ、今はそれでいい。あとでまた考えよう。
「それよりもね」
オーデリアが俺の上でゴロゴロと楽しそうに転がる。
「ノベト、すごく気持ちいいよ。ずっと一緒にいてくれない?」
「えっ、な、なに?」
突然の提案に俺は動揺した。まさかプロポーズ?
「ちょっと寝ただけなのに、こんなに体が軽くなったのは生まれて初めて! 一生君の上で転がっていたいよ!」
……どうやら、俺を人間だと勘違いしているらしい。
俺はベッドだ。つまり、家具としてのパートナー提案だったのか。なるほど。
「誘ってくれてありがとう。でも、俺には他にも見たい世界がたくさんあるんだ。旅を続けたい」
「そんなこと言わないで、一緒にいようよ? ね? ね〜〜?」
オーデリアはうつ伏せになったまま、カエルのようにバタバタし始める。
神聖な精霊様がこんなに粘っこくなると、ちょっと困るんだけど……。
「オーデリア、まずはもう少し休もう? 起きたら改めて話そう」
「やだ、答えてくれるまで寝ないもん!」
……さっきまでは女神みたいに静かで神秘的な性格かと思っていたけど、もともとこんな性格だったのか。
とにかく、寝てもらおう。俺は「熟睡歓迎」を使った。
効果は抜群だった。オーデリアはうつ伏せのまま、見事にぐっすり眠った。
そして俺は「超深層潜入/脱出」を発動し、オーデリアの深層世界から静かに離れた。
どうせ目覚めたらまた振り回されそうだし……悪いけど、今はここで一旦お別れだ、オーデリア。
――気がつけば、俺は精霊樹の根元にいた。
闇は晴れ、強い太陽の光が森全体を明るく照らし、静けさが辺りに満ちていた。
周囲には誰の姿もなかった。
「ベルゲ!」
「ノベトか!」
しばらくして、ベルゲと仲間たちが姿を現した。
オーデリアの言った通り、みんな怪我は治っているようだった。
「助かったよ」
「君も無事でよかった」
こうして、精霊樹の問題は無事解決し、俺たちはエルフの村へと帰還した。




