第16話
──気がつくと、そこは漆黒の空間だった。
ここが精霊樹の内部なのか。どこを見ても真っ暗で、何も見えない。
だが、動ける。これは深層世界だから、自分の意志で動けるということか。
もっとも、俺はベッドだがな──なんて冗談を言ってる場合じゃない。
精霊はどこにいる? このまま「熟睡歓迎」は使えない。
精霊には確率でしか効かない魔法だったし、残った魔力をギャンブルに費やすわけにはいかない。
つまり、残された手段はひとつ──残った1ポイントを使う。
「現在保有中のポイントを使用して、魔法:空間浄化(LV.1)を開発します」
「空間浄化(LV.1)を使用すると、自身を中心とした一定範囲内のすべての汚染を浄化します」
今度こそ「絶対空間」みたいに破られないでくれよ……。
いや、もしかすると俺の力量不足かもしれない。後で特訓必須だな。
とにかく、これで声が届くはず──
「精霊! どこにいるんだ!」
「だ……れ……?」
精霊が反応した。俺は声のする方へと浮遊する。
「助けに来た。返事してくれ!」
「く……る……し……い……きて……」
消え入りそうな声。その方角へ進む。
「万物理解」を使い、声の正体を探し出す。
どれほど彷徨っただろうか──。
ついに、何かが俺のフレームに触れる感触があった。
「これは……?」
「空間浄化ああああああっ!」
視界が白く弾け、周囲の闇が晴れていく。
そしてその先には、黒い茎のようなもので縛られ、吊るされている少女の姿があった。
おそらく彼女が精霊様だろう。
「動けるか?」
「む……り……」
顔はひどく憔悴しており、眼の下には濃い隈。
充血した瞳、色素を失った髪。
もはや立つどころか、話すことすら困難な状態のようだ。
──ならば、俺が動くしかない。
「空間浄化(LV.1):残り使用回数 99回」
おっ、消費が少ない。絶対空間よりはるかに軽い。
ならばいくらでも使ってやろう!
そう思った矢先──外部の闇が、棘のようなものを伸ばして俺に襲いかかってきた。
「なっ……!」
咄嗟に「硬化」と「絶対空間」で防御。
どうやら闇が俺を敵と認識したらしい。
ならば今できることは、彼女の背中に回ってマットレスに触れさせつつ、絶対空間と空間浄化を交互に使い、回復を待つしかない。
絶対空間が破られた──本気で俺を壊すつもりか!?
精霊様まで拘束してる存在が、ベッド一つ相手에게 전력을 다한다니 억울하잖아!
再び絶対空間を展開。マットレスを背に回し、空間浄化を発動。
光が再び広がり、少女を縛っていた黒い蔓が数本ほど消えていく。
「……少し、楽に……なった……」
精霊様の声が、さっきよりはしっかりしてきた。
よし、効果あり! ならばこのまま押し通す!
だが、闇はしつこい。絶対空間の外側からじわじわと攻撃を続けてくる。
このままでは、絶対空間に魔力を奪われすぎて空間浄化が使えなくなる。
選択を迫られる──
スレインの顔が浮かぶ。
命を懸けて道を拓いたユルロウン、メンデイン、ラルフェイル、モレス、スピルロ、ホレイル、パンテエル、セトレル、そしてベルゲ。
彼らが信じて戦った理由──
そう考えたとき、答えは一つしかなかった。
「空間浄化!」
俺は、精霊を拘束する闇が消え去るまで、何度も空間浄化を繰り返した。
そして、すべての闇が払われた瞬間──
素早くマットレスに敷いた布団で精霊様を包み込んだ。
もはや、絶対空間は使わない。
今は彼女の回復が最優先だ。たとえ、自分の身体が削れても。
「精霊様。まずはゆっくり眠ってくれ」
俺は「熟睡歓迎」を発動し、最大まで硬化して防御体制を整える。
残った魔力で、周囲の闇を切り裂くように空間浄化を展開する。
「警告:魔力をすべて消費しました」
──ここからは、根性だけが頼りだ。
外部の闇が襲いかかる。
だが俺は──マットレスと布団で精霊様を包んだまま、外装だけを硬化して防ぎ切る。
フレームも硬化して、極限まで耐え抜く──ただ、ただ守るために。




