20 城下町
今日は気分転換にセシルと城下町へとやってきた。
これでも一応公爵令嬢なので護衛もきちんとつけているけど、クロと契約した私は魔法だけなら護衛よりも強いと思う。
いざとなったら闇の精霊王という最強の切り札もいるし、正直護衛は必要ないくらいだ。
あんなのだけど、精霊王の名は伊達ではない。
今日はお忍びなので公爵令嬢とバレないように護衛も含めて全員変装している。
今回のコンセプトは中規模商会のお嬢様アリー。今回はというかだいたいいつもこれなんだけどね。
ちなみにセシルは私のお姉さんで姉妹という設定だ。
護衛の人たちは私たちから少し離れてついてきて他人のふりをしている。
最初の頃は私が城下町に行くことに難色を示していたお父様とお母様も今では慣れたものだ。諦めたともいう。
「さて、今日は気分転換に美味しいものを食べまくるわよ!」
「いつもお屋敷でも召し上がっているかと思いますが。」
「城下町の食べ物とお屋敷での食べ物はやっぱり違うんだから。それに、城下町では次々新しいものがでるから、新しい美味しいを発見しないとね!」
お屋敷で出る高級な料理やお菓子も美味しいけど、城下町の手作り感のあるお菓子も私は好きなのだ。
それに時々思いもよらない出会いもあるので、城下町だって馬鹿にはできない。
「さて、まずはいつものところに行きましょうお姉さま!」
「分かりましたよアリー。」
私は行きつけのケーキ屋さんに意気揚々と向かったのだった。
「はぁ。美味しかった…。」
「それは良かったですね。」
無事に目的のケーキを手に入れた私は、ケーキ屋さんを出た後もうっとりとその味の余韻に浸っていた。
「本当にあそこのケーキは美味しいよね。今回の新作のチョコレートケーキも最高だった。」
「確かに。アリーが何度も通うのも納得するくらい、あそこのケーキはここら辺では頭ひとつ抜けていますね。」
セシルのいう通り、あのケーキ屋さんは城下町でとても人気のある店だ。
人気がありすぎて行列はいつものことだし、昼くらいには完売してしまう
高級なケーキとはまた違った魅力があり、私はここの味が忘れられず何度もここに通っているのだった。
「さて。一番の目的は済ませたから、今度は新しいものを探して城下町を回って見ましょう。お姉さまは見たいものはある?」
「いえ、特には。アリーの行きたいところで構いませんよ。」
「そう?じゃあ雑貨屋に行こうかな。お姉さまも見たいものがあったら遠慮なく言ってね!」
ぶらぶらと町を歩きながらなにか面白いものはないかと探していると、見覚えのない店を発見した。
前ここに来たときはなかったので、新しく開店した店のようだ。
「見てみてお姉さま!新しい店ができてるわ!」
「アリー!離れすぎないでください!」
私は気が急いてしまって駆け足で店に向かうと、向こうから走ってきた子供とぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさ「おっと、ごめんよ!」」
ぶつかった子供は急いでいたのかそのまま走り去ってしまった。
突然のことで呆気にとられていた私の元にセシルが慌てて駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?怪我はありませんか!?」
「う、うん。ちょっとぶつかっただけだから。」
珍しく慌てている様子のセシルに私は安心させるように笑顔で頷いた。
随分急いでいたようだけど、町に住む子供だったんだろうか?
私も余所見していたのは悪かったけど、ぶつかったなら向こうも一度止まって謝るべきじゃないだろうか。
もう相手はいないので仕方なく心の中で文句を言っていると
「アリー。財布などなにか盗られてはいませんか?」
「…え?」
一瞬なにを言われたのか分からなかったけど、セシルの言いたいことを理解して慌てて私は財布を確認する。
「あ、ない!」
セシルが指摘した通り、私のポケットにあったはずの財布がいつの間にかなくなっていた。
やられた。あの子供は偶然ぶつかったのでなくスリだったんだ。
「やはりスリでしたか。相手にぶつかる振りをして財布を抜き取るのはスリの常套手段ですから。少し離れて護衛していたのが仇になりましたね。」
「た、大変セシ、お姉さま!あの子供を直ぐに追いかけないと…!」
「落ち着いてください。まずはお嬢様の安全が最優先です。あの子供は騎士が追いますから、お嬢様はお屋敷に戻りましょう。」
セシルは私をアリーではなくお嬢様と呼んだ。
もうお忍びは終了だといいたいのだろう。
公爵家の令嬢である私の安全を最優先するというのは間違ってはいないけど、ただのスリだし相手は子供だ。
危険というほどのことではないし、なにより私はここで引くわけにはいかない。
財布の中身には大切なものが入っているのだから。
追いかけるのが遅れれば遅れるほど追跡が難しくなってしまうのが目に見えている。
「仕方ない。セシル、追いかけるわよ。」
「なりません。いくらなんでもお嬢様がスリを追いかけるなど。そういうことは騎士にお任せください。公爵家の所持品を持っているのですからすぐに足がつくでしょう。」
「今すぐ必要なの!」
「いけません。今日のところはお屋敷に帰りますよ。また城下町に来る機会はありますから。」
私がなにを言っても駄目ですの一点張りでセシルは全く聞く耳を持とうとしない。
子供のスリ相手に警戒しすぎだと思う。
私だって魔法は使えるしラスボスらしく戦闘だってできるのに。みんな過保護すぎる。
結局私はセシルを説得することができないまま屋敷に戻ることになってしまった。
セシルが馬車を手配している間、護衛の人と店先でしばらく馬車が来るのを待つ。
「いいですか。お嬢様をしっかり見張、護衛するように。」
セシルは去り際に護衛の人にそう言うと、不安そうに私に「大人しく待っていてくださいね。」と言い残してから去っていった。
セシルは私のことを何歳だと思っているのだろうか?
仕える上司というより、まるで幼い子供に言い聞かせるみたいな言い方だった。
しかもなにげにさっき、私のことを見張れと護衛の人に言いそうになったよね?
一度私のことをどう思っているのかについてセシルとじっくり話し合う必要がありそうだ。
まあそれは屋敷に戻ってからの話になるだろう。
私はこっそり護衛の様子を伺うと、どうやってここから抜け出そうか頭の中で計画を立てるのだった。




