16 謁見 後編
国王陛下の視線がこちらに向いた。いよいよ私の番がきたのだ。
陛下はいつもと雰囲気が違っていた。
いつもはお茶会やパーティーとかで会うので、優しい親戚のおじちゃんみたいな感じだけど、今日のようにこうした厳格な謁見で会うのは初めてのことだ。
なんというかさすが国王陛下だなーという感じ。
威厳がいつもより増しているし、その堂々とした君主たる姿は思わずひれ伏したくなるほど。
正直に言おう。ちょっとびびっている!
「アリシア嬢。そなたも闇の精霊王を召喚したと聞いた。さすが公爵家の令嬢だな。我が国に二人も精霊王と契約を結ぶとは私も鼻が高い。大義であった。」
「ありがとうございます。これも陛下のご威光があればこそでございます。」
私は公爵家の令嬢らしくおしとやかに、お母様に叩き込まれたカテーシーをして恭しく頭を下げた。
もちろん同じくお母様に叩き込まれた外向けスマイルも忘れない。
「はっはっは!謙遜するな。その世辞も一体誰に学んだことやら。」
機嫌良さそうに大きな声で笑いながらも、参席している私の父である公爵にちらりと視線を向けた。
たしかにご威光がうんたらかんたらは、謁見の前にお父様から教えられた言葉だった。
お父様は知らないふりをしているけど。
「これだけの偉業を成したのだ。エミリー嬢も貴族の仲間入りを果たした。そなたにもなにか褒美がなければな。なにか望みはあるかね?」
「望みなど。恐れ多いことでございます。陛下の判断に従います。」
陛下の言葉に私は定例のように返事を返す。
まるで茶番のようだけど、ここで馬鹿正直に自分の望みを言ってはいけない。
場合にもよるけれど、大抵は褒美をとらせると言われたら自分から望みを言わず国王に判断を任せる。
そうすることで、この国の貴族として、そして王の臣下として褒美のために行ったことではないと周囲に示すと同時に王に忠誠を示すのだ。
もし望みを言ってもいいなら辺境でスローライフを送りたいです!と言いたいところだけどそういうわけにもいかないし。
それに、私は知らないけど既に下賜されるものについては事前に準備されているはず。
私はまだ学生だし、ブロッサム公爵家の領地が増えるとかかな?これ以上爵位は上げられないし。
でもただでさえ広い領地だから私個人が爵位をもらうかもしれない。闇の精霊王の契約者を他国にとられてしまわないためにも。
褒美についてあれこれ考えていると、気のせいか陛下がにやりと笑みを浮かべたような気がした。
「そうかそうか。余の判断に従うか。それはよい褒美を考えなくてはな。」
なにかが成功したような、思惑通りに進んだかのような、そんな愉快そうな笑みを浮かべながら述べた陛下の思わせ振りな言葉に、なぜだろうか、とても嫌な予感がした。
まるで罠に嵌まった気分になり、少し怖くなってこっそりとお父様に視線を向けると、お父様も事情を知らされていないのか眉をひそめて怪訝な表情をしていた。
お父様は悪役令嬢の父親というだけあって娘を溺愛しており、私が困った時には助けてくれるイケメンの頼れるパパさんである。
娘に対してダダ甘なので、たしかに前世の記憶がなければ私は傲慢で我が儘なこれぞ悪役令嬢!という性格になっていた自信がある。
お母様はマナーや礼儀作法については厳しいけど、やはり娘を溺愛している。
閑話休題・・・
まあとにかくいつも頼りになるお父様に思わず助けを求めたくなるほど私は陛下の雰囲気に呑まれて不安になっているということだ。
お父様の表情を見る限り今回はあてにならないかもしれないけど。
いくら大きな権力を持つ公爵家当主といっても、やはり国王陛下には敵わないのだから。
私が気取られないようにしつつも内心戦々恐々としていると私をロックオンしていた国王陛下の視線が外れた。
そしてその視線が向かう先には
「アルフォンス、我が息子よ。ここに。」
「はい。陛下。」
腹黒を隠す優しげな甘い笑みを浮かべながら国王陛下の横に進み出た、堂々と佇む第二王子、アルフォンス=ローズ=フローランド。
頭脳明晰、容姿端麗。王妃様の嫡男であり、王太子に最も近いと言われるこの国の王子。
というか何故殿下が出てきたの?
まさか王子様あげますって?アハハ!まさかそんなわけないかー。
馬鹿なことを考えているとアルフォンス殿下と目が合ってしまった。
『にっこり』
・・・。
なぜだろうか。冷や汗がとまらない。
アルフォンス殿下はとても優しい甘い笑みをしているはずなのに、恐ろしいと感じてしまう。気のせいか国王陛下よりも怖いんですが。
ダブルで圧力が来て限界。私を圧死させるつもりかこのロイヤル親子は。
助けてパパン!
「・・・。」
なんかお父様、めっちゃ渋い顔してません?
というより、国王陛下を睨み付けてません?
でもなにかを察知したのかお父様だけじゃないようで、この場にいる大貴族たちはそれぞれの反応を見せざわざわし始めたような気がする。
そんな中で陛下はやはり笑みを浮かべながら口を開く。
「さて。アリシア嬢に対する褒美だが・・・」
心なしか、陛下がお父様を見て満足そうにも見えるのは私の気のせいかしら?
「我が自慢の息子アルフォンスの婚約者として、ブロッサム公爵家令嬢アリシア嬢を王族に迎え入れたい!」
・・・ホワイ?
「それと同時に嫡男であるアルフォンスを王太子に任命する!アリシア嬢には未来の王太子妃としてアルフォンスを支えてもらいたい!もちろん、受けてもらえるな?」
・・・。 Why!?




