15 謁見 前編
王族の名前を少し変えました。
「ブロッサム公爵家御令嬢アリシア様。ならびにエミリー=フランネル様。ご入場!」
謁見の間の扉が開かれて私とエミリーはゆっくりと国王の待つ玉座へと歩を進める。
左右に並ぶ貴族たちの好奇の視線が突き刺さるが、ここで怯んではいけない。
なんていったって私は公爵家の娘なのだから。
ここでの態度は彼らからの評価に関わるし、私がヘマすれば家にも迷惑がかかるのだ。
貴族というのは狡猾な生き物で、隙を見せるとハイエナのように食らい付いてくるため、例えまだ子供であろうと弱みを見せてはならない。
自分がこうして貴族として生まれて実感するが、貴族は息が詰まってあまりいいものではないと思う。
エミリーは私と違った意味で気が抜けないだろう。
平民のくせにと良く思わない者もいるだろうし、利用してこようとするものも後を絶たないはずだ。
エミリーのことをよく思わない人たちからどんな嫌がらせをされるとも分からないし。私みたいなね!
まだ発表はないが、これから貴族の仲間入りするだろうし、ライバルとして頑張って欲しいと思う。
そんなことを考えながら指定されたところまで到着すると、作法通りに私とエミリーは国王陛下に淑女の礼をして膝をつき頭を垂れる。
「面を上げよ。」
威厳のある素敵なイケボでお許しが出たので私とエミリーは顔をあげた。
少し離れたところの玉座には、国王陛下と王妃殿下が座っている。
その回りには王族、つまり王子たちも立っていて、もちろん攻略対象であるアルフォンス殿下もいた。
国王陛下はロマンスグレーの髪に金色の瞳をした素敵な紳士で、名君としても名高い優れた王様だ。
私は公爵令嬢なので何度かご挨拶したことがあるけど、私のイメージとしては優しい人だと思っている。
今も私たちに向けるその視線は優しく温かい。
お父様にそれをいうと『見た目に騙されては駄目だよ!』と言われるんだけどね。
王妃様はあの腹黒第二王子の実の母親で、殿下と同じ金色の髪に青い瞳の穏やかでとても美しい人だ。
王妃様のお茶会に呼ばれてお母様と一緒にお茶を飲んだりしているため、結構顔を合わせることは多かった。
甘いものが好きでいつも美味しいお菓子をたくさん用意してくれていて、私の話も楽しそうに聞いてくれる優しい人だ。
それをお母様にいうと『見た目に騙されては駄目よ!』と言われる。
いや、王族ってみんな腹黒い人しかいないの?殿下の腹黒い性格ってもしかして遺伝なのかもしれないと思う今日この頃。
宰相が私たちの使い魔である精霊王の話を、いつの間にか見に覚えのない脚色をつけながら話している間にそんなことを考えていると、国王陛下が話を始めた。
「我がフローラ王国に二人もの精霊王の契約者が現れるとは、とても喜ばしいことだ。さらに二人は珍しい光と闇の属性の持ち主でもある。」
国王陛下の言葉に集まっている貴族たちがざわざわと騒がしくなる。
権力を求めている貴族たちにとって私たちはいい的だ。
精霊王を味方につけることができれば、国で発言力が高まり高位貴族や王家だって無下にはできない存在になるのだから。
元々公爵令嬢だったため婚約の話は多かったけど、これからさらにその話が増えることになるだろうと思うと憂鬱な気分になる。
「静粛に!」
宰相の言葉に騒がしかった貴族たちが静かになる。
それを合図に国王陛下は話を進めた。
「まず、エミリー=フランネル。」
「は、はい!」
国王陛下に直接声をかけられてガチガチに緊張した様子になるエミリー。
ちょっと声が上ずっているような気がするけど大丈夫かな?
「そなたはたしか孤児であったな。」
「はい、その通りです。」
「うむ。そなたを貴族の養子として迎え入れる準備がある。ロータス伯爵。」
名前を呼ばれた伯爵が貴族の列から前に出てきた。
この人がエミリーの引き取り先として国王陛下に選ばれた人か。
あまり詳しくは知らないけど、民を思いやると人気のある領主で国王の信頼も厚いとか。
たしか要職にもついていたんじゃないかな。
まあ陛下が下手な貴族にエミリーを預けるわけないよね。
精霊王の怒りをかったら大変だし。
綺麗に整ってはいるけど、どちらかというと厳つい顔つきのロータス伯爵はエミリーに近づくと優しく微笑んだ。
うん。なんだろうね。厳つい顔なのに、ふにゃっと笑うものだからなんか不思議と可愛く見えてくる。
「ロータス家当主、レアンドル=ロータスだ。これから君はうちの子だよ。父と呼んでくれ。」
「は、はい。お父様。よろしくお願いいたします。」
エミリーは少しはにかんでペコリとお辞儀をした。
事前に養子の打ち合わせはしていたらしいから、これは他の貴族たちにエミリーがロータス家の養女になったことを知らせるためのもの。
国王陛下はエミリーの意思を尊重するため、既にロータス伯爵も交えて養子縁組みの話をして決定していた。
そのことをエミリーが学校で話してくれたのだ。
うん。いやなんでヒロインと仲良くしているんだろうね、私は。
まあそれはさておき、エミリーが正式に貴族の仲間入りを果たした。
これで物語が一歩前に進んだことになる。
エミリーが貴族になったことが気に入らない私のいじめもこれから苛烈になっていくことだろう。うん、間違いないね。
そしてエミリーの養子を聞いた貴族たちは、苦々しい顔をしているものが多い。
自分の家の養子にと考えていた人もいれば、平民だったエミリーが突然伯爵家という高位貴族になったことが気に入らないものもいるだろう。
でもこれは国王陛下の決定だから文句を言う人はいないはずだ。少なくとも今は。
こうしてエミリーについての話は予定通りに終了するのだった。




