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14 悪役令嬢、完敗する

 ガタガタと揺れる馬車の中で私は憂鬱な気分に浸っていた。


「あ゛あ~。行きたくないよ~。帰りたいよ~。お尻痛いよ~。」


「お嬢様。淑女としてあるまじきおっさんのような声が出てます。」


 おっさんとは失礼な。

 私もちょっと思わないでもなかったけど、人に言われると結構傷つくんですよ。


 しかし、馬車ってほんとに凄い揺れる。

 現代の車を知っている私からすればちょっと耐え難いほどだ。

 とはいえ歩いていくという選択肢はないから我慢するほかないんだけど。


「早く到着して欲しいような。欲しくないような。」


「私は早く到着して欲しいですね。」


「そりゃあセシルは出席しないもんね!」


 お付きの侍女は別室で主人が国王に謁見して終わるのを待つようになっている。

 いいなあ。私も終わるまで別室にいたい。

 多くの貴族に見られながら謁見しないといけないと思うと胃がキリキリする。

 もうヒロインだけでよくない?


「あー帰りたい。」


「まだ到着すらしてません。」


 馬車の中セシルに愚痴を言ってそれを流されるというのを繰り返し私たちは王宮に到着したのだった。




 王宮に到着した私たちは王宮勤めの侍女に案内されて待機する部屋へと向かっていた。

 王宮に勤める侍女はほとんどがいいところの貴族のご令嬢たちだ。

 そのため貴族でも侍女だと思ってなめてかかると良家の娘でした!と自分より上の家に知らず知らずのうちに喧嘩を売っていたということにもなりかねないのだ。

 といってもうちの公爵家よりも上は王族しかいないんだけども。


 そういえばヒロインも謁見するんだよね。

 控え室は別なのかな?

 暇だったから馬車の中でヒロインに会ったら言うべきセリフベスト3を考えてきたんだけど。


「アリシア様。お時間でございます。」


 まさかのヒロインとは会えずじまい。

 あるよね!準備してきた時に限って必要なかったりすることって。


「分かりましたわ。今参ります。」


 侍女に案内されて謁見の間へと向かう。

 セシルはこのままここで待つので向かうのは私だけ。


 謁見の間の扉の前には私よりも先に到着していたヒロインことエミリーが綺麗なドレスで着飾って立っていた。

 さすがヒロインというだけあってとても可愛らしい。

 薄い桃色のドレスは可愛らしい顔をしたエミリーの雰囲気にとてもよく似合っていた。


「アリシア様!」


「あらエミリー様。ごきげんよう。」


 私が来たことに気づいたエミリーは私に向けて顔をほころばせた。

 緊張でもしていたのか、悪役令嬢の私でも知り合いが来たことでほっとしたのだろうか。


「まさかあなたと陛下に謁見することになるとは思ってもいませんでしたわ。」


 嘘です。ずいぶん前からこうなると思ってました。


「ええ。私もまさか自分が陛下に謁見する機会に恵まれるなんて夢にも思いませんでした。まだ夢でも見てるんじゃないかって思うくらいです。今日もずっと緊張してますし。」


 胸に手を当てて不安な表情を見せるエミリーにここは悪役令嬢の見せ所だと、入学式時から常に持ち歩き、今まで出番のなかった扇子を取り出す。

 やっぱり悪役令嬢として決めるところは扇子がなくちゃね。イメージ的に。


「あなたは平民ですもの。無理もないですわ。本来ならこの場にいることすら間違いなのよ。」


 私は広げた扇子で口元を隠してクスクスと笑う。


 やべえ。私、今までで一番上手く悪役令嬢になれているかもしれない。

 特に『平民』に力を入れて言ったのが良かったな。うん。平民を嫌うなんていかにも悪役令嬢っぽい!

 しかもヒロインが不安がっているところをさらに攻撃するなんて、なんて私は悪い子なの!

 いいぞ!もっとやれ!


 ふふふ。これは悪役令嬢が板についてきたんじゃあない?

 ああ!自分の才能が恐ろしい!!


 私が高笑いするのを我慢しながら自画自賛していると、エミリーは「そうですよね。」と言葉をもらした。


 およ?私の言葉に傷ついたのかな?

 ごめんよ。エミリーちゃん。私は悪役令嬢だから役目が終わったら大人しく退散するからそれまで我慢して


「そうですよね!私は平民なんだから緊張するのは当たり前ですよね!」


「そうそう。平民なんだから緊張するなんて当たり、ま・・・え?」


 あれ?私そんなこと言ったっけ?


「少し気持ちが楽になりました。ありがとうございます。アリシア様!」


「え?ええ。よ、よろしくってよ。オホホホホ・・・。」

 

 アリシア様に励ましてもらっちゃった!と嬉しそうに微笑むエミリーに私は戦慄を覚える。


 エミリーって天然なの?鈍いの?ポジティブ思考が振り切ってんの?

 あれをどうしたらそんなふうに受け取れるのだろうか?

 いや、たしかに『無理もないわ』的なことを言ってたような気もしないわけでもないけど。嫌みったらしく笑われたところで普通「あ、こいつ馬鹿にしてんな」って気づかないかな?


 まさか一ミリもダメージを与えないどころか、励ましの言葉として受け取られるなんて。

 予想の斜め上をいく反応だわ。

 気のせいか、せっかくの扇子がなんだか哀愁を漂わせているような。

 ヒロインが強敵すぎる。


 いや。そもそも私が勘違いしているだけなのでは?

 私の素晴らしい悪役令嬢っぷりが空回りしたとは考えにくい。だって今までで一番良くできた自信があるもの。

 だから、嫌みが不発だったのではなく、ヒロインが全てを理解したうえで言葉を返していたとすれば?


『そうですよね!私は平民なんだから緊張するのは当たり前ですよね!少し気持ちが楽になりました。ありがとうございます。アリシア様!』


 これが反撃なのだとすれば、翻訳すると?


『そうですよね!私は平民だけど、アリシア様は高位貴族なんだから緊張も失敗もしないですよね?きちんとできて当たり前ですよね?アリシア様みたいにできて当たり前じゃないから少し気持ちが楽になりました。ありがとうございました。アリシア様!』


 ・・・・。


 帰っていいですか?

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