12 ヒロインの使い魔
よくやくみんなの興奮も収まりを迎え、いよいよお次はヒロインの使い魔召喚の儀。
エミリーは緊張の面差しで魔方陣へと向かう。
クラスの反応は、精霊王召喚の後に召喚するはめになったエミリーに哀れみの目を向けるもの、珍しい光の属性に期待を向けるもの、平民だからと侮りの目を向けるものとに別れていた。
もちろん私はエミリーがなにを召喚するのか知っているのでそのどれにも含まれないけど。
ちなみにルシール先生はめちゃくちゃ期待している人だった。
それはもう目をキラキラさせるほどに。
エミリーが緊張している原因の大半はルシール先生にあると思います。
「なにを言っておるのだ。一番の原因はお主に決まっているだろうに。」
クロはすっかり見物客、いや野次馬となって、あくびをしながらそうのたまった。
・・・ナチュラルに人の心を読むのをやめてくれませんかね、この精霊王は。
「仕方なかろう。契約により繋がっておるのだ。使い魔が契約者の心を読めるのはあたりまえなのだ。」
なるほど。ほとんどの使い魔は動物型で人の言葉を話すこともないから気にならなかったけど、人型で言葉を話すタイプだと思ったことを暴露されると。
なんて理不尽な!
「ま、人の言葉を話す使い魔は強力な力を持ったものだからな。それの代わりと思えばよかろう。」
そんな!年頃の乙女にとって心が読まれるのはかなりきついでしょうよ!
プライバシーの侵害だ!
「乙女?」
「・・・」。
「うわあ!言葉は流れてこないのにどす黒い怒りの感情ががががが!」
なお、部外者から見れば一人で会話している状態の哀れな精霊王は、周りから危ない人?精霊?として遠まきに見られるのでした。合掌。
「『我は光を司る者。我と共に時を刻む者を求めん。契約によって新たな時が紡がれる。我が求めに応じる者、その姿を現せ。』」
放心状態の闇の精霊王をよそにエミリーは使い魔の召喚を行っていた。
まばゆい光を放つ魔方陣は、さすが光属性というべきか神々しくも感じられ、魔力も私のときとひけをとらないほどに濃密だった。
エミリーのことを侮っていた生徒も含めて驚きにざわつくほどに。
光がパンっと弾けてそこにいたのは白銀の髪に黄金の瞳を持った一人の美しい少女の精霊。
しかも、クロと同じく圧倒的な魔力と存在感を放っていて、どう見てもただの精霊ではない。
「ま、まさか。」
驚きにしんと静まりかえった中で、誰かの思わずといった小さな呟きがやけに大きく聞こえた。
「私を呼んだのは、あなた?」
魔方陣の前に立ち呆然としているエミリーに召喚された精霊は、なにも感情を写していないかのような表情のまま首をかしげて尋ねた。
「は、はい!」
「・・・そう。」
エミリーの返事に目を伏せて短く答えると精霊は自分の召喚主に近より
ゴン!
結界にぶつかった。
「・・・痛い。」
「あわわわ!す、すみません!」
どうみても精霊が自分からぶつかりに行ったのに、何故か慌てて謝るヒロイン。
なんだろうね。クロのとき、こいつ馬鹿じゃなかろうかと思った私とはえらい違いだ。
これがヒロインと悪役令嬢との違いだとでもいうのだろうか。
それにしても、精霊って召喚されたら一度は結界にぶつからないといけない決まりでもあるのかね。
「うひゃひゃひゃ!あいつぶつかってやんの!」
隣で結界にぶつかった精霊第1号が自分のことを棚に上げて大笑いしているけど、こいつは自分に特大ブーメランだということに気づいてないのかな?
そんな闇の精霊王を既にないものとして扱っているかのようにエミリーは使い魔の名前を必死に考えているようだった。
「な、名前はなにがいいですか?」
と思ったら、いい名前を思いつかなかったのか精霊に直接聞いてしまっている。
それでいいのか、ヒロインよ。
ゲームではたしかに自分で好きな名前をつけることができていたけど。
「それを考えるのは私じゃない。」
「そ、そうですよね。すみません。」
エミリーは申し訳なさそうに謝るとヒントになりそうなものでも探しているのかキョロキョロと周りを見渡した。
そして、ふとエミリーと目が合ったような気がした。
「えっと。じゃあシロで。」
『え!?シロなの!?』
「・・・分かった。」
『いいのかそれで!?』
使い魔の名前を聞いた生徒たちは声にこそ出さなかったが、顔が思いっきりそう物語っていた。
殿下のサラマンダーのときも思ったけど、意外に私のクラスの人たちは表情豊かで愉快な人たちが多いのかもしれない。
そして名付けが完了した精霊はエミリーと契約が結ばれ、晴れてヒロインの使い魔となったのだった。
「さすがのエミリーも名付けのセンスはなかったか。」
「お主。それは自分に特大ブーメランだと思うぞ。」
「あんただけには言われたくないわ!」
そんな悪役令嬢と闇の精霊王の会話があったとかなかったとか。




