11 人気者は苦労する
「アリシアさん、素晴らしいです!まさか闇の精霊王を召喚してしまうなんて!これは歴史にも残る快挙ですよ!さすが私の教え子!」
契約を終えて魔法陣から離れた私を迎えたのは私と真逆にテンションがハイマックスなルシール先生。
「は!これは私がアリシアさんの師匠として教科書に載ったりしちゃったりして!」
グフフ!と楽しそうに笑うルシール先生に『んなわけねえだろ』というような生徒たちの痛い視線にものともしないルシール先生は完全に自分の世界に入ってしまっている。
というかルシール先生はいつ私の師匠になったのよ?
もっというならまだルシール先生の授業をまだひとつも受けていない状態なんですけど?
私が呆れて先生を見ているといつの間にか周りの生徒から囲まれてしまっていた。
「あ、あの!アリシア様!私、ダスティ伯爵家の長女、セレストと申します!ど、どうかお友達に・・・」
「俺、じゃなくて私はナーシサス侯爵家の次男、アルバンと申します。今度お話でも・・・」
うがー!なんかいっぱいきたー!
闇の精霊王を召喚しちゃったからか取り入ろうとしてくる生徒からのラブコールが凄まじい。
まだ子供のはずなのにさすが貴族の子供というべきかたくましいなまったく。
しかもやってくるのは伯爵以上の子息にご令嬢。
子爵や男爵家の子供たちは遠巻きに遠慮しているようにこちらを見ている。
こんなところにも格差社会が!
とはいえ囲まれているこの状況は私としても困るということには違いがないわけで。
貴族としての外聞があるから無理にはねのけるわけにもいかず、顔の筋肉をフル活動してオホホ、ウフフと笑顔を振り撒く。
はい?お茶会のお誘い?
はいはい。機会があれば喜んで。
え?お付き合いしてください?
おととい来やがれコノヤロー。
え?髪の毛ください?
やるわけねえだろ!誰だよ怖いわ!
そんな心の声を叫ぶわけにもいかず、ただでさえ忙しい顔の筋肉を思わず口が開いて余計なことを言わないように横に引き上げる。
私、今顔大丈夫だよね?
変な顔になってない?
唯一止めてくれそうなルシール先生は未だに戻ってこないし、私はいつまでこの苦境に耐えればいいのか。
だんだんと思わず遠い目になっているとき、パンパンと手を叩く音が届いた。
「気持ちは分かるけどそこまでですよ。アリシア嬢がお困りだ。」
人の壁が別れてできた道を歩いてこちらに来るのは救世主の王子様。
うん、比喩じゃなくて本物の王子様だったわ。
「アリシア嬢。この度は闇の精霊王との契約おめでとうございます。」
にこっと優しく美しく顔で微笑むと、まるで王子のように、いや王子なんだけど、うやうやしく私の手をとってそっと唇を落とす。
そしてちらりと目線を周りによこすと周りにいた生徒たちは遠慮したようにさあっと引いていった。
おー!さすが王族だわ。高位の貴族たちが気まずそうに去っていく。
いきなりキスしたときは、はたき落としてやろうかと思ったけど、この腹黒王子が私を助けてくれたなんて!
ゲームのことがなくてなにも知らなければ、コロッと落ちていてもおかしくないわ。
そして私以外聞こえない小さな声で耳元にそっと囁く。
「貸しひとつですよ。今度城にご招待しますからお茶でもしてくださいね。」
「ブルータス!お前もか!」
「は?」
「あ、いえいえ。なんでもありませんわ。楽しみにしています。オホホホ。」
ちっ。前言撤回だ!
王族の特権を振り回しただけで他の貴族と変わらないわ。
王宮ってところがさらに難易度が上がったらくらいなんですけど。
「では楽しみにしていますね。日程については後程使いの者に連絡をいたしますので。」
いい笑顔で去っていく腹黒王子に恨めしい視線を向けながら、気づかれないようにそっと息をついた。
思わず余計なことを口走ってしまって、そのまま断ることなく了承してしまった。
まあ、王族のお願いなんて断れないんだけど。
良かったことといえば、王子に目をつけられてしまったことで他の貴族が寄り付かなくなったことくらいかな?
私を誘って王子の不興を買うことになったら大変だし。
やっぱり貴族社会って面倒だわ。
私が王宮に行くことを思って胃を押さえていると、隣からツンツンとつつかれた。
「ん?」
「なあなあ。我はいつまで放置されとけばいいのだ?」
「あれ?まだいたの?」
「まだ居たのだ。」
ちょっと不満気に顔をしかめた闇の精霊王ことクロはまだ帰ってなかったらしい。
「さっきいたっけ?」
「うむ。ちょっと我の手におえなさそうだったので隠れていたのだ。」
「へえーー。」
「あいたたた!い、痛いぞ!我の頭を掴むでない!我を誰だと思っている!偉大な闇の精霊・・・ちょ、待つのだ。わ、割れる!ごめんなさい!悪気はなかったんですぅーーー!」
にっこりスマイルで手に魔力を込めて筋力強化し、クロの頭を持ち上げるとちょっとスッキリした。
「あーー、いった。なんなのだこの怪力女・・・いえ、なにも言ってないです。気のせいなんです。」
クロは汗をダラダラかいて顔を思いっきり背けていた。
そんなんじゃ、自分がやましいことしましたって言っているようなものだと思うのは私だけだろうか?




