10 闇の精霊王
いよいよ私の番がきた。
ちょっとヒロインのことで心配ごとができてしまったけど、とりあえずそれは後においておこう。
・・・痛いほど刺さる視線もおいておこう。
魔方陣の前までくると何回も覚えさせられた呪文を唱える。
「『我は闇を司る者。我と共に時を刻む者を求めん。契約によって新たな時が紡がれる。我が求めに応じる者、その姿を現せ。』」
私が闇属性の魔力だから当たり前だけど、魔方陣から黒いもやもやが出てきてちょっと怖い。
でも引いているのは私だけのようで、珍しい闇の魔力にクラスメイトたちは興奮したようにわいわいと騒いでいる。
だんだんと魔力が濃くなってきた魔方陣は黒いもやが一気に吹き出し、その圧倒的な力にさすがのクラスメイトたち、そして先生さえも次第に言葉をなくしてごくりと息をのむ。
そして召喚が完了し黒い霧が晴れてそこにいたのは
『え?』
艶やかなさらさらの黒髪に紫色の綺麗な瞳、透き通るような白い肌。
この世のものとは思えないほどの美しさ。
そして、なぜか偉そうにふんぞり反っている小学生くらいの少年だった。
「まさかこの時代にこの我を呼び出す者が居ろうとはな。我も驚いたぞ。」
腕を組み不敵に笑ってこちらに向かって歩いて
ゴッ!
来ようとしたが魔方陣から出られずに見えない壁にぶつかった。
「いった!おい、そこのお前!ボーッとしてないでさっさと名前をつけろ。ここから出られんではないか。」
少年はぶつけた顔を押さえて私に怒りだした。
というか、まだ名前をつけてないのに魔方陣から出ようとするなんて頭悪いんじゃないだろうか。
最初に召喚されたロックフロッグのピョン吉くんだって名前つけられてから飛び蹴りしてきたというのに。
「おい、そこのお前。無視してないでなんか反応せんか。」
「あー、えーと。一応聞きますけど、どちら様でしょうか?」
「ふん。まあ人間が我のことを知らないのも仕方ないか。」
やれやれと首をすくめながら言う反応が小さい子ども相手だがなんかイラッとする。
「よく聞け人間たち!我は闇に属する者たちの頂点に立つ闇の精霊王である!名前はまだない!」
ぶはっ!
なんだその「我輩は猫である」みたいな自己紹介は!
思わず吹き出しそうになってしまったんですけど!
しかし、闇の精霊王だと聞いた先生やクラスメイトたちは純粋にとても驚いたようでざわざわと騒ぎ始める。
どや顔をして得意げにふんぞり反る闇の精霊王に私はみんなとは違いげんなりとした顔をしてしまう。
たしか、伝説の闇の精霊王を召喚してしまったことで王宮に呼ばれたりとか面倒事が舞い込むことになるんだよね。
嫌だなー、帰ってくれないかなー。
「おいお前。いつまで我を放っておくつもりだ。お前にはやるべきことがあるだろう。」
「あー、すみません。この度はお忙しい中どうもありがとうございました。お帰りはこちらになります。」
「あ、ご丁寧にどうもすみません。それじゃあ・・・って、なにしれっとそのまま帰そうとしてるんだ!」
「ちっ。」
「あ、こいつ今舌打ちしたぞ!これでも我精霊王なんですけど!」
「なにかの間違いでは?」
「そんなわけあるか!」
あー、やっぱり一度召喚した使い魔は名前つけないと帰ってくれないか。
「ふん!我にそんな態度をとるとは誰が契約なんかするか!もう帰るからな!」
「え、いいの!?」
「なんでそんな嬉しそうなんだ!さすがに我でも傷つくぞ!」
なんだこの精霊王、ビービーギャーギャーうるさいなあ。
精霊王ってこんな面倒くさいキャラだったのか。
「お前今絶対『こいつ面倒くせぇ。』とか思ってるだろう!」
「は!まさか闇の精霊王って人の考えを読めるの!?」
「顔にデカデカと書いとるんじゃボケ!」
「え、ちょっと頭おかしいんじゃ・・・」
「ものの例えだから!分かりやすいって意味だから!本当に書いてるわけじゃないからぁー!!」
自称精霊王はそう叫ぶとゼーハーゼーハーと息が苦しそうだ。
そんな言わなくても分かっているのに。
どうしてかな?精霊王を弄るのが楽しくなってきてしまった。
セシルもこんな気持ちだったのかな?
「もういいから。もうなにも言わないから早く名前つけてくださいお願いします。」
疲れたのか精霊王が手を合わせて懇願してきてしまった。
名前をもらわずに帰るという選択肢はないのかね?
「じゃあクロで。」
「おい、なんだその適当な名前は。精霊王らしいもうちょっと格好いいのにしてくれ。」
切り替えが早いのか、名前をつけたとたんにしおらしい態度が一変した。
うん、まさか使い魔が名前を拒否してくるとは思わなかった。
というかさっきもうなにも言わないからとか言ってなかったっけ?
「・・・ウルトラスーパーブラックレジェ」
「クロでいいです。」
こうして闇の精霊王改め、使い魔のクロが誕生したのだった。




