79話 青春と都市伝説 ①
呉羽よりバースデー・ベアの奪取に成功した (実際は格闘ゲームの三回勝負に二回勝っただけ)空はホクホクとした様子でオレンジ色でラッピングされた袋を大事そうに抱えた。これでカンナに渡せる、として流石にクリスマスパーティーが終わってから渡そうと思っていた彼は「あとでな」と告げると、玲や明たちのところへと行ってしまった。どさくさに紛れて渡すのは構わないが、恥ずかしいという気持ちが大きかった。それ故に空は後にしたのだ。
そう、その『あとで』というのはよくなかったらしい。
空が一度トイレに入ってプレゼントの中身が相違ないか確認していたときだった。プレゼントの中から見慣れないメッセージカードが入っていることに気付いた。何だろうか、と取り出して見てみると――。
『そろそろケジメを着けろ』
明らかに自身の字ではないことはわかる。こんなくだらない文書を書いて、サプライズとしてカンナに渡そうとも思わない。
「はあ?」
思わず、嫌な予感がした。空は慌ててトイレから出ると――。
「夏斐!」
「夏斐様!」
大地と次郎が焦った様子で空のもとへと駆け寄った。彼がいるということがわかると、二人は安心するが、それも束の間である。
「あのな……洋子と三春が――」
現状を知っている二人でも戸惑いを隠せなかったらしい。
「あいつらに連れ去られちまった」
その言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。おかしな話である。色んな人を呼んで、パーティーをしていたのに。ガヤガヤと人がたくさんいたはずなのに。独りでいないことを徹底していたはずなのに。おかしい。
「う、ウソでしょ?」
未だとして、空は半信半疑のようであるが、そんなつまらない嘘なんてつくものか。次郎はもちろん、大地だって真剣な眼差しをしているのだから。それだからこそ、疑うべき人物も浮上してきた。
「会場の中にいたはずのあの二人に加えて、桜もいなくなっていやがる」
もはや、確定と言っても過言ではないだろう。大地の説明後、次郎から付け足すようにして、衝撃的事実を耳にする。
「どうも、桜様が持ってこられたジュースに睡眠薬が紛れ込んでいたようです」
「はあ!?」
「あいつ、誰彼構わずしてススメてたからな。全員に配っている物だから、イラナイなんて言えやしないし……」
もう一つ、事実を上げるならば、空と呉羽以外の全員がそのジュースを飲んで寝ている間にカンナと洋子を連れ去ったということである。
ここでカンナに渡す予定だったプレゼントの中に入っていた奇妙なメッセージカードを取り出した。
『そろそろケジメを着けろ』
まさかとは思う。あのビンゴゲームから格闘ゲームまですべて仕組まれていたならば? そうなると、他にも共犯者は考えられるか。
「……高崎?」
玲の可能性を上げてみた。彼はこのパーティーにおいて、司会者である。そして、何より自分たちが関わるようになった都市伝説のことを知っていた。
空が玲に疑いをかけていたのだが、その線は薄いと次郎は言う。
「一応、私が独自に調べ上げていますが、高崎様はシロです。夏斐様たちに都市伝説のことを教えていたから真っ先に疑っていたのですが……」
玲はただ単に噂話が好きな男子高校生のようである。
「とにかく、これについての一番のクロは桜だ。夏斐、あの工場の中に行くぞ」
「えっ!? 今からですか?」
「今からも何も、ヤツらのアジトはそこしかねぇ。それに、オマエのお……あの男から招待も受けてんだろ? 行ったところで拒否なんてするワケねーだろ」
大地は見せてもらったメッセージカードを手にピラピラと音を立てた。
「ヤツらはようやくシッポを目の前に見せびらかしてきているんだ。こんなチャンスは滅多にないだろ」
行くのは構わなかった。だが、一番気になるのがあの男に手を貸している呉羽の存在意義である。なぜに彼は自分の父親の味方についているのか。彼も近くにいるならば、見ているはずだ。あの顔のない人物を。見て、危なっかしい研究を手伝う気になれるだろうか。空はそう思わないが――。
「……人類の差別をなくすって言っていましたよね?」
「くだらねーけどな」
「そうとなれば、善は急げです。私はパーティーを終わらせてくるので、お二人はいつもの場所でお待ちください」
何かを示し合わせたようにして、言いたいことがあるのだが、言葉が出てこなかった。会場の方に行ってしまった次郎の背中姿を見て、大地が言っていた『くだらない』ということに関しては激しく同意である。本当にくだらない。
そのようなことのために、人の大事な時期である青春を潰すのか、と。その何もかも差別がなくなったとしても、こうして邪魔された時間が取り戻せるかというならば、それはNOである。
それは世間一般からしたら、夢のような話だろう。差別のある世界は許しがたいとも思っている。だが、人の貴重な時間を削ってまでするとなると、差別は許されないと文句を謳う資格なんてあの男たちにあるものだろうか。
なんて考え事をしていると、空の腹の奥底から伝わってくる怒りをどこにぶつけたらばいいのだろうか。悔しい思いがプレゼントの袋を握る右手に積もり積もっていく。
「な、夏斐?」
その憤りは次郎に促されていつも通される部屋の方へと行こうとしていた大地にも伝わっていた。ここまで業を煮やした空は見たことなかったから。一応、先週くらい前の『4人』というゲームをした際に怒り狂った彼の姿は拝見したことがあるのだが。それ以上なのだ。
手がつけられそうにないほどの怒り。そうであっても、ここで苛立ちをしない方がいいかもしれない。そう考えた大地が空を率いて用意されている部屋へと行こうとするのだが――。
「あの」
二人の後ろの方から女性の声が聞こえてきた。彼らが振り返ると、そこにいたのは見覚えのある人物だった。
「あなたが……夏斐空君ですか?」
二人がよく知っている女子高生に似た女性。彼らがよく知っている男子高校生――呉羽の母親である桜リカが眉根を寄せていた。




