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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇冬の事変
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77話 プレゼント格闘技 中編

 フェイントをかけてくるならば、こちらもかけたらばいい。空はそう思っていた。だが、呉羽のことである。おそらくはこちらがカウンターを仕掛けても仕返すに決まっている。だったならば、それのもう一手であるカウンターを仕掛けるか? 彼はどこまでこちらの心の中を、行動を見切っているのかは定かではない。


「それイッコちょうだい」


 呉羽を見た。彼は洋子の友人から小袋入りのお菓子をもらって悠長にしていた。なるほど、余裕があると見た。その彼女からも要るか、と空は訊かれるが――バトルに集中をしたい。食べることはしなかったが、もらうだけもらっていると――。


「夏斐、相手が厳しいなら、オレが代打しようか?」


 見かねた大地がそう言ってきた。彼の気持ちも素直に嬉しいのだが――。


【こんチクショウメがっ!!】


 呉羽の家に行ったときの大地のことを思い出せば、断るのも当然だ。


「や……オレは別に大丈夫っスよ」


 大地よりかは幾分かマシであるから。そうそうフェイントに何度も引っかかるほどのアホではないのだから。空が遠慮していると、カンナが「そーだよ」と珍しく同意してくる。


「センパイって、負けるとムキになって同じ現象が起きるでしょ。それに、空はこれから一回も負けられないんだから」


「カンナ、人を煽るのも大概にしろ。そして、オレに変なプレッシャーを与えんなよ。絶対勝たなくちゃならねーだろーが」


「大丈夫、大丈夫。空ならわたしのためにプレゼントを手に入れてくれるから」


 その確信的な発言、どこから自信が湧いてくるのだろうか。そもそも、呉羽と格闘ゲームをしているのは一つのプレゼントを賭けているから――元より、そのプレゼントの中身が彼女に渡す物である。カンナってエスパー? 何気に先ほどの言葉は中身を知っているぞとでも言うようなものだったぞ。


「ままっ、リラックスして」


「桜センパイ強いのに、リラックスなんてできるかよ」


 ただでさえ、あのプレゼントの中身を知られたくないのに。というのも、バースデー・ベアを買いに行ったときもとてつもない羞恥心に襲われたのである。周りにいるのは女子中高生だらけ。男子という存在は皆無。まさに浮いているというのはこのことか。まだ洋子の誕生日プレゼントを買いに行ったときはよかった。それこそ知った顔のカンナだったり、同じ男子である大地がいたり、と多少の安心感はあったのだ。


 しかしながら、一人で買いに行くというのは実に恥ずかしい。こちらを見て笑われていないだろうか、というような心配をしてしまうほど。誰か知り合いでも一緒にという発想はない。


 好きな女の子に誕生日プレゼントを渡すという行為自体が誰かに見られたくないのである。正直言うと、みんなが知っていて欲しいのはカンナと『恋人になったとき』である。彼女のことが好きであるということ、恋人同士になりたいという思いは覚られたくないのだ。


 商品を選んで、レジに持っていくときも代金だけを置いて逃走したかった。だが、今のご時世はバーコードリーダーで商品を通さないと、窃盗容疑にかかってしまう。流石にこんなところで前科は持ちたくない。レジにいる女性店員は自分のことをばかにしていないだろうか。不思議と妄想が捗る。こちらを見てにこにことしてはいるが、その裏返しは知る由もない。


【プレゼント用でよろしかったですか?】


 そう言っていた。なぜにプレゼント用だとわかったのか。答えは簡単。男子が自分でバースデー・ベアを所持することはあまりないから。買うとしても、恋人に渡すだろう。


【は、はいっ】


 あまりにも緊張感あり過ぎて、レジ周辺で小銭をバラまいてしまったことは記憶にある。そのときは店員や他の女性客に拾ってもらったのだが――。


――もうあんな思いなんてしたかねぇ!


 それが第一の思いである。


『Ready』


 画面に映る文字を見て、コントローラーを強く握った。


『Go!!』


 開始の合図と共に、呉羽が操作するキャラクターが動いた。先手を狙うつもりなのだろう。カウンターのカウンターを狙って。


――そうはさせるかっ!


 空はカウンターをするために指を動かすが、その直後に別のボタンの方に指を動かす。キャラクターが防御後に返し技を試みようとしてくる。


 そこは読めていた。呉羽だから。


 カウンターのカウンターのカウンターを仕掛ける。これで終わりとはまだ思わない。まだ仕返しは来るはずだから。右親指の位置はすでに別のボタン。


――さあ、来いっ。


 事実、その通りであった。カウンターのカウンターのカウンターのカウンターをしてくる。この『カウンターの』という言葉がうんざりするくらいに、しつこいぐらいにまだやるか。


 させるわけがない。


 空はカウンターのカウンターのカウンターのカウンターのカウンター。三度目のカウンターを仕掛けた。ここは、呉羽は想定外だったらしい。きっちりとその攻撃を受けていた。それと同時に彼が操作していたキャラクターが宙に浮く。これはチャンスだ。今の内に空中コンボを決めろ。


 コンボを決めていくと、相手のヒットポイントのゲージが徐々に減っていくのが見えた。この状況に周りから歓声が上がる。心なしか、隣に座っている呉羽のオーラは苛立っているようだ。どうだ、これが硬直状態からなかなか抜け出せないやつの気持ちがわかったか。


 そうであっても、ヒットポイントがなくなるまでコンボを続けられるほど甘くはないようだ。硬直状態が解けたそのキャラクターは体制を整えつつある。そこからどういくかは相手の先手を見極めた者だけ。


――多分、だけど……。


 空は試しに攻撃を仕掛けた。その攻撃を相手は受け止めてカウンターを仕掛けようとしてくる。


 やはりだ。またペースに飲まれないために、空は防御をする。ここでカウンターを仕掛けるのはよくないはず。ワンテンポ置いて攻撃を仕掛けてみれば――。


 空振りするは相手の拳。その後に空が操作するキャラクターにぶっ飛ばされてしまった。


『You Win!!』


――勝てたっ!


 実に喜ばしいこと。だが、ここで安心してはいけない。まだ残り一回戦がある。


 しかしながら、ここまで本気の空たち――ここに学校の教師や親がいたとするならば、ゲームで真剣になるより、勉強で真剣になれと言われそうである。だが、彼にとってはこれを本気出さなければならないのである。己の学力よりも己の羞恥の方が大事なのだから。

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