76話 プレゼント格闘技 前編
たかがビンゴゲームの景品を巡っての争いをするなんて。空は渡されたコントローラーを見つめていた。いや、それよりもほとんどテレビゲームなんてしないはずの洋子の家にあるのだろうか。それが逆に不思議である。これまでにおいて、ゲームのコントローラーすらも触ったことないと言っていたのに。そう不思議に思っていると――。
「冬野センパイ、秋島センパイと遊ぶために買ったんだって」
争奪戦頑張れ、と言ってくるカンナに教えてもらった。
「空がウマくいけば、あの景品はわたしのモノ!」
なんというジャ●アン的思考であるか。オレの物はオレの物、お前の物もオレの物精神は根強く存在しているようである。
「てか、空って格闘ゲーム強いじゃん。勝てるよ」
なんて言ってはいるが、そうとは言いきれないと空は眉根を寄せた。現在のテレビ画面にはキャラクター選択としてある。隣に座っている呉羽を一瞥する。
呉羽とは一度だけ別の格闘ゲームで戦ったことはある。そう、彼の家に遊びに行ったときである。あのときは呉羽の母親が気になって油断していた、ということもあったが、素直に強いとは思っていた。
――あのときのセンパイ、もの見事に空中コンボをしていたからな……。
何度も味わったハメ技から抜け出せなくて、何度も負けたことは記憶にある。なんとか一回だけは勝利を収めたが、一緒にいた大地はというと――。
【こんチクショウめがっ!!】
全く歯が立たずして、コントローラーを投げ出そうとする始末。流石に人の物だという理性はあったようで、それを堪えてはいたようである。
前回は別のゲームでの対戦であったが、今回は自分がしたことのある、自分の家にあって、何度もしたことのあるゲームである。このゲームが呉羽の家にあるかどうかはわからないのだが。そうだとしても、警戒は怠らない方がいいだろう。
「んー、どれにしよっかな? なあ、夏斐はどれにする?」
「……迷いますねぇ」
いつも使うキャラクターはパワーも素早さもバランスが取れたキャラクターである。使い慣れた方がいいと思っているが、果たしてそれがいいとは限らない。キャラクターにも相性はある。たとえば、普段から使い慣れているキャラで悪い相性は防御専門のキャラクターだからだ。
これをもしも呉羽が使えばどうなるだろうか。答えは簡単、負ける可能性は高い。いや、それらのキャラクター同士の対処法は知っていたとしても、する余地があればの話だ。彼を前にして不得手な行動をするのは得策ではない。
トリッキーな技を使うキャラクターがいいだろうか。そうなると、操作性に問題が出てくる。かと言って、パワーや素早さに特化したキャラクターであっても、これらは防御が弱い。
――そー、考えると……。
消去法から考えると、使い慣れたキャラクターを使用する他なかった。勝てるか、勝てないかで考えると、勝率は五十パーセントと言ったところか。わからない、が一番似合うと思う。
「じゃ、オレはこれ」
決定に迷いを見せていると、呉羽は空が選ぼうとしていたキャラクターとの相性の悪い防御専門のキャラクターを選んだ。こちらを見てくる彼のその視線は明らかに誘いをしているようだ。カーソルがそこで止まっているから。決定ボタンを押そうか、押すまいかと悩ましそうだったから。
「ほら、夏斐。そのキャラクターにするんだったら、早くしようぜ」
心なしか、周りも早く決めてくれ、と言っているように見えた。このプレッシャーに耐えきれずして、空はいつも使用するキャラクターに決定をした。
《うーし、決まったみたいだな。そんじゃ、このゲームのルールに則って、三回勝負で》
『Ready』
テレビ画面が切り替わった。
『Go!!』
バトル開始と共に、空はキャラクターを動かした。一度目は負け戦だと思うべし。相手の力量を知らぬまま闇雲に突っ込むべきではないが、知ろうとしないと勝てないのもこれまた事実。一応はカウンター返しの技ができるから問題はない――。
いや、問題大ありである。
空が使用するキャラクターが掴み掛ろうとするのだが、上手くかわされてしまうのだ。ここでカウンター攻撃が来るか、と疑心になってカウンター返しの攻撃を仕掛けるが、掠りもすることもなかった。呉羽はただ単に避けただけなのである。
次の攻撃を仕掛けられてしまってはたまったものじゃない、として手あたり次第攻撃のボタンを連打する。これが一番無意味であるのにとは理解しているはずだが――。
「よっ」
案の定、隙をつかれて相手の攻撃をまともに食らってしまった。それは何も一度だけではない。呉羽宅のゲームでも体験した空中コンボを受けているのである。ここから抜け出さなければいけないのに。
ヒットコンボから抜け出すために適当にボタンを押しまくってはいるが、攻撃を受けているイコール硬直状態であるため、どうしようもないのだ。一回戦はこのまま指をくわえて負けを見ていろとでも言っているのか。
ひとまずは逃げることに専念しろ。
硬直が解けた瞬間に回避のボタンを押す。そこで十二連続コンボは途絶えた。どうにか間合いを取ることに専念する。自身が使用しているキャラクターのヒットポイントは残り僅か。これでどうにかしろ、と逆転劇をした試しはあるが、相手は呉羽である。勝てる見込みはほぼないに等しい。まだ対戦相手が大地であるならば、できるのだが。と思っていることに関しては内緒である。
――カウンターを使ってはこなかったよな……。
使ってこないならば――。
予想は攻撃をかわした後のタイミング。攻撃をそのまま続けるか、それともカウンターに備えるか。今のところ、呉羽が使う様子はない。やってみる価値はあるのである。
空はもう一度呉羽が使っているキャラクターに向かって攻撃を仕向けてきた。彼はそれを軽やかに避ける。カウンターが来ないとするならば、としてもう一度攻撃を与えてくるが――。
『You Lose!!』
あっさりとカウンターされてしまい、負けてしまった。これにて一回戦目は空の負けである。その悔しさに呉羽の方を見た。彼は余裕の表情を見せてくる。それがなんとも腹立たしいものだった。
「おっ、勝った」
負けた悔しさを声に上げることはしない。それよりも、今度は別のやり方で勝たねばならないだろう。
――だったら……!




