75話 メリークリスマス・ビンゴゲーム! ④
三十回目にしてカンナが上がった。彼女は嬉しそうに「上がったー!」とビンゴになったカードを掲げて玲の方へと行く。彼女が選んだプレゼントは誰が持ってきた物よりも大きな物。自分が持ってきたオレンジ色のプレゼントを選んでもらえなくて、空は小さく項垂れていた。よかったようで、悲しい。
「見て見てぇ、空」
大きなプレゼントを持ってきたカンナは見せてくる。近くのテーブルに置いて、リボンを解こうとしているところを見る限りだと、ここで開けるらしい。一体、どんな物が入っているのやら。
「大きいから期待はできるよねぇ。中身はなんだろ」
喜色満面でプレゼントを開けると、そこにあったのは、大きな箱に入っていたのは――。
百円均一店で売ってそうな洗濯バサミだった。しかも、一個。箱の大きさと中身に無言の訴えを空の方に向けてくる。そんな顔をされても、自分にはどうしようもないのである。まだリーチにすらもなっていないのだから。
「空ぁ」
「オレに助けを求めないで」
「今日はわたしの誕生日だよ。空がビンゴったらプレゼントちょうだい」
なんという厚かましさ。いや、自分が狙っているプレゼントをカンナに渡そうとは考えているのだが。空は少し離れたところにいる呉羽を見た。彼はまだビンゴにはなっていないようだ。だが、彼がダブルリーチになっている分、こちらが不利である。
「…………」
なんとしてでも、プレゼントを回収しなければならない。そう思っていると、カンナは「てゆーか」とため息をつく。
「コレ、誰? 入れたの」
「アレだろ? ネタプレゼント」
「ネタぁ?」
こういうときにネタをしないで欲しい、とぷりぷり怒っている。どうやらカンナは自身の誕生日だから期待をしていたらしい。そんなの誰に受け渡るのかわからないのに。
カンナがブー垂れていると「アレ?」そう、呉羽が近付いてきた。これに少しばかり二人は警戒をする。
「キミがそれ選んだんだ」
そういう呉羽のその言い方。まさかとは思った。
「えっ、これって桜センパイが?」
「ウン。そんなこれに金をかけたくないからな。それにウケるだろ?」
なんて言っている呉羽ではあるが、そのようなことを言わない方がいいのに。空は心の中で手を合わせる。なぜって、ここに冗談が通じない者がいるからである。これ以上何も言わずして、ここから立ち去って欲しいものだと思っているのだが――。
「まさか、昔ばなしみたいにして、でかい箱だからって期待してたワケじゃないよな?」
――まったくもってその通り。
余計な刺激を与えたな。
呉羽にそう言われてしまったカンナは珍しくぶちギレ状態。「なんだと、コノヤロー!」と女子としては似つかわしくもない怒罵を上げるのだった。突っかからないようにして、空は彼女を止めるしかない。
「怒ってる?」
「怒ってるんで、これ以上ヨケーなコト言わないでくれます!?」
どこかで見覚えのある光景。ああ、これはあれだ。呉羽が大地にちょっかいを出したときの光景。立つ鳥跡を濁さずというようなことはせずして、厄介だけを散らかして逃げる呉羽。カンナを宥めることができたのは浩子がケーキを持ってきてくれたおかげでもあった。
◆
前途多難なビンゴゲーム。いつになれば自分はリーチにかかるだろうか、と見逃した数字を見ては照合する数字へと穴を空けていく。未だとしてあのオレンジ色のプレゼントは誰にも選ばれてはいない。
「ねー、いつになったら空はリーチにかかるの?」
美味しそうにケーキを頬張るカンナ。そんな彼女を見て「さーな」と予測はつかない。
「こればかりは運だからな」
そう、それだからこそ、カンナにあげようと思っているプレゼントを誰も狙わないで欲しいのだ。ね、そこでダブルリーチがかかってもまだ上がらないイレギュラーさん。
「ねねっ、ちなみに空が狙っているプレゼントって何? ソレ、わたしにくれるんでしょ?」
「カンナって清々しいよな。厚かましさが」
「いーじゃん。今日はなんて言ったって、わたしの誕生日なんだよ? わたしって主役なんだよ?」
「オレらが集まってるのって、いちおークリスマスパーティーなんだけどな」
なかなかリーチに引っかからないな、と空が『20』の数字を空けた。それでも約半数が上がっていないため、ゲームは続行される。
《そんじゃー、次の数字は『73』な》
「『73』だって。ある?」
「おー、ある……」
なんて空がその数字に穴を空けたときだった。ようやくリーチがかかったのだ。これに嬉しかったのか「やった!」と少しばかりテンションを上げて申告をした。
「おおっ、これでもう一つのプレゼントがもらえるね!」
「さり気なく自分を所望するなぁ」
これは自分に運でも回ってきたか、と空は次の数字を待ち詫びた。まだあのプレゼントは誰にも行き渡っていないのだから。上手くいけば、回収ができるぞ!
《はい、次は……『43』でーす》
玲の言う数字とカードを照合すると――。
「あった! ビンゴ!!」
ようやくこれでカンナに渡す誕生日プレゼントを回収できる。なんて空が安心しきった様子で玲の方へと赴く。
「高崎、オレビンゴったぜ」
「そのとーりだな。好きなの持ってけドロボー」
「誰がドロボーじゃ」
玲とは適当にやり取りを交わして回収したいプレゼントに触れようとしたときだった。
「ソレ、オレも欲しいんだケド」
嫌な声が聞こえてきた。そちらの方を見れば、ビンゴになっているカードを手にしている呉羽がいた。二人の間に妙な空気が生まれる。それを見た玲は「えっと?」と首を傾げた。
「夏斐も桜センパイもそれが欲しい、的な?」
「すんません、オレが最初に目をつけたモノなんで」
「いやいやいーや。オレもそれが欲しい。断固として」
二人から漂う不安な雰囲気。間に挟まれた玲は戸惑いを隠せない。どちらとも妥協などしないその精神に困り果てているようである。余程、そのプレゼントが欲しいのか。じゃんけん、という手立てもあるのだが、それで彼らが納得いくはずもないだろう。ちらりと何やら楽しそうな音が聞こえる方を見た。先ほどから聞こえてくる楽しそうな音楽。そう、全くリーチすらもかからない上に飽きたのだろうか。大地と洋子はビンゴゲームを放り出して、格闘ゲームに勤しんでいた。
――これだっ!
《夏斐、桜センパイ!》
マイクでしゃべる玲に双方は顔を向けた。
《そんなにそのプレゼントが欲しけりゃ、力ずくで勝ち取れ!! とゆーコトで――》
空と呉羽の手にはつい先ほどまで大地たちが握っていたゲーム機のコントローラーを渡された。それを手にした二人は怪訝そうな面持ちで玲を見る。
《プレゼント争奪の延長戦開始だぁ!!》
やる種目は格闘ゲーム、と言われて空は思わず鼻水を吹き出しそうになるのだった。




