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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇冬の事変
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68話 再・四人でRPG 前編

「ソレ、するんスか?」


 大地にジャーマン・スープレックスをかけられ、痛々しそうに頭を擦る空は『4人』のゲームソフトを見た。中古店のワゴンセールで買ったものではあるし、何よりパッケージすらもないそれを売ったとしてもかなりの安価だろう。だから、売らずにそのまま持っていたのだ。


「洋子がしたいってさ。とゆーコトで、オレはコントローラー持ってくるわ」


 そうだ、このゲームは四つのコントローラーが必要なのである。空の家には二つ存在するが、もう二つはないのである。それ故に大地の家にある分を頼らなければならないのだ。彼は少しばかり重たい腰を上げると、自分の家へと戻ってコントローラーを二つ持ってくるのだが――。


「別に急がなくてもいーんじゃないスか?」


 急ききった様子で戻ってきた。心なしか、髪の毛が乱れまくっているし、汗だくのようだ。リビング前に来て、暖房の入っていない場所で涼やかな風に当たると、穏やかな表情を見せる。


「ウチでアネキとそのカレシがやっていたとこをゴーインに奪ってきた」


「それはいくらなんでも。冬野センパイのためだからと言って、やり過ぎやしません?」


「でも、技かけられる前に逃げてきたから問題は――」


 ない、と断言したかったのだろう。だが、夏斐家のインタホーンが鳴る。これに大地は肩を強張らせていた。玄関の方を見て「出るんじゃねーぞ」と空に念押しをする。


「あれはきっと、オマエのおじさんだ」


「……出ますね」


 自分の父親だ、という言葉は禁句らしい。空は誰が来ていたのかは予想がついている。いや、カンナも同様であるが、洋子だけは大地の言葉を信じていた。


「な、夏斐さん! 流石に危ないのでは?」


「大丈夫ッスよ。チェーンかけて出るので」


 もちろん、嘘である。是非とも『彼女』にスコーピオン・デスロック辺りでもかけられたらば、いい。


 なんとも、黒い腹を持っているな、とカンナは苦笑いをしながら玄関の方へと向かう空を止めようとする大地を悠長に見ていた。だが、このままでは埒が明きそうにない。ということで、彼女が勝手に出た。


「三春っ!?」


 しまった、カンナがいたか、と気付いたときはもう遅い。開けられた玄関からは白衣の男でも、顔のない人物のオーラでも何でもない、別の危険性のある雰囲気がリビングの方にまで漂ってきているではないか。


 どこか隠れる場所! なんて部屋中を探しては隠れようとする大地を逃すものか。空自身はプロレス技ができるわけではないが、誰かをせき止めるくらいの力くらいは持っている。そこまで非力ではないのだから。


「逃がしませんよ!」


「おまっ! いーのかっ!? 自分チでオレの苦しむ姿を見たいってか!?」


「じゃなきゃ、こうしてませんよ」


「夏斐!? ウソだろぉ!?」


「ウソでもなければ、これはホントだから」


 入口の方から聞き知った女性の声が聞こえてきた。果てしなく、嫌な予感しかしないのである。振り返りたくなかった。だが、体が勝手に反応する。恐怖心より好奇心が打ち勝ってしまったようだ。そちらの方を見れば、夏斐家の家の中に脱色したセミロングの女性がこめかみに青筋を立てていた。


 誰なのか、予想はつくだろう。そう――。


「あ、アネキ……」


「百歩譲って、トモダチと遊ぶために借りていくのはわかる。でも、アンタがしたのは人が遊んでいる最中にパクっていく精神だし」


「センパイ、それはいくら何でも……」


 流石の大地の行為に空とカンナはドン引きしている。そんな怒りのオーラを露わにしている彼の姉の後ろには苦笑いをしている青年がいた。おそらく、この人物は彼女の恋人であろう。


「さぁて。どんな技をかけられたい?」


 迫りくる姉の恐怖。大地は痛い目に合いたくないのか、逃げ出したくても空がガッチリと服を掴んでいるため、逃げられない。しかも、ご丁寧にジーンズを。上なら脱いで逃げられるにしても、下は脱げそうにない。いや、実際に公衆の面前で脱ぐわけにはいかないのだが。


「ちょっ、放せっ!」


「お姉さん、今回はどんな技をおかけになります?」


「うーん、これでいこうかな」


 逃げられない大地。自分の姉に技をかけられそうになったときに見えた空。彼は敬礼をして、見送っていた。


「クソッ! 覚えてろよ、夏斐ぃ!!」


 悪党のような捨て台詞を吐きながら、大地は自身の姉にコブラツイストをかけられ――苦痛の声を上げていた。


     ◆


 半分死にかけたような状況の最中、お仕置きを終えた大地の姉は洋子に気付くと――。


「もしかして、ウワサの洋子ちゃん? アホから聞いているよ。これからもこれをよろしくね」


「えっ、あ、はい……。あの、大地さんは生きていますよね?」


「あははっ、これくらいで死ぬようなモンじゃないよ。これの取り得と言えば、タフなところ」


 その内、勝手に復活すると言われるが、洋子はそれでも心配をしていた。大地のもとへと近付いて「大丈夫ですか?」と声をかけをする。


「初めてプロレス技とやらを見ましたけど、意外にも過激なんですね」


「過激っつーか、元からそんなモンだけどな」


「えっ、プロレスとは歌唱力が高い人が勝ちの競技なのでは?」


「ちげーよ。って、これ夏斐が前にツッコミをしてなかったっけ?」


 やはりどこかズレた様子の洋子。それに大地が鼻白んでいると、姉の恋人がテレビ画面を見て「あれ?」と声を上げた。


「なんだ、大地クンがコントローラーを借りようとしたのって、これするの?」


「知っているんスか?」


「うん。これって、ケッコー特殊なゲームだしね」


 この『4人』というゲームはプレイ開始からクリア要素が決まるという言葉に空は食いついた。謎ゲームの全貌を知っているならば、攻略に心強いからである。彼は「よかったら教えてください」と大地の姉の恋人に頼み込んだ。これには快く教えてくれることに。


「始まるとフィールドにいるでしょ? 目指す先は町だろうケド、その町中に地下に続く階段があるんだ。そこを降りるとラスボスがいるから」


「えっ、町の地下に?」


「うん。一応は自由度の高いゲームみたいだケド、セーブするとこもその町しかないんだよ」


「前に町の人倒しちゃったから……」


「いやいや、それって誰もがするよ。オレも初めてしたときはそーなったから」


 いいことを聞いた、として四人は大地の姉たちを見送ると、早速ゲームを開始した。何ヵ月もしていないということもあって、操作の仕方は忘れてしまうが、敵と戦っていく内に慣れていった。もちろん、洋子も自分だけで敵一体を倒せるほどまでに成長したのである。


 町中へと入り、誰にも話しかけず、地下への入口を見つけた。これを機に空はマイクを装着して、いつでもストーリーに入れるように、スタンバイを取った。


『それじゃあ いきましょう。』



1P 剣士 HP 15/15 

2P 魔法使い HP 13/13 

3P 僧侶 HP 10/10 

4P 遊び人 HP 8/8 



『4人』。本編がいよいよ始まる。

コブラツイスト・・・、プロレス技の一種である。日本名はアバラ折り。背後から相手の左足に自分の左足をからめるようにフックさせ、相手の右腕の下を経由して自分の左腕を首の後ろに巻きつけて背筋を伸ばすように伸び上がる。可能な場合は、両手をクラッチすると更に威力が増す。


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