67話 話を聞かない人にはジャーマン・スープレックス
「……それで、なんでオレんチなんスか」
怪訝そうにしているのは空である。今日は日曜日ではある。そんな彼がリビングでカンナと共に学校の課題をこなしていると、大地と洋子がやって来たのだ。彼ら曰く、暇だったから遊びに来たのこと。大地は「ヒマだしな」と答えを返す。
「別に洋子の家で遊ぶのは構わねーけど、あんま居座るのもな。かと言って、オレんチだとアネキとかがメンドくせーし」
「私は大地さんの家に遊びに行くのは構わないんですが……」
「アネキやかーちゃんにからかわれるのがヤなんだよ」
「で、空んチに来た、と」
カンナは空のノートを覗き込みながら、そう言う。だが、見たいところが見れないのか、彼の腕を上げてまでも見ようとしているのだ。何度も止めろと言っても、効き目はないから為されるがままに諦めてはいるようだった。という以前に、互いの家の親は仕事のため、どちらかの家に二人でいる状況が多い。それもあってか、こういうことにはもう自然として捉えているのが空である。
「つーか、夏斐んチってさ、ケッコーゲームが多いよな。遊んでいい?」
「セーブデータを消さなければ、どーぞ」
「あっ、それで思い出したけどさ、この前借りたゲームで空のデータを間違って消したけど、問題ナイよね? クリアデータだったみたいし」
そう思い出したかのようにして、カンナはあまり悪びれた様子もなく、「ゴメンね」と軽く謝罪をしてくる。これに空は顔をしかめた。
「どのゲーム?」
「アレ」
指差す先にあったのは、大地が手にしているゲームのパッケージ。それを見て、ノートを閉じた。
「あー、見えない」
「見えないじゃない、見せないんだよ」
珍しく、ほんの少しばかりの怒りを露わにしているようだ。そんな空の様子にカンナはまずったか、とどこか申し訳なさそうな表情をした。だが、自分が消したのはやりかけのゲームデータではない。すでにクリアしているゲームデータなのだ。それの何が悪いのだろうかとわからないらしい。
しかしながら、それを空はどこか嫌味ったらしく、律儀に教えてくれた。
「クリアデータでも、周回プレイしていたんだけど? アレ、周回プレイしないと出ないアイテムがあったんだけど?」
「あらら、ご、ゴメンねぇ。代わりにわたしがやったデータを使ってもいーから」
そう言うカンナに空は大地がお構いなしでしているゲームデータの画面を見た。そこにあるのは彼女がプレイしたであろうセーブデータ。だとしても、これではない。彼自身が求めているのはこのデータではない。
「絶対、ルート違うだろ」
「えぇ、結果一緒でしょ? クリアデータ」
「なワケあるかっ! あのデータは進行ルートによって、手に入れるコトができるアイテムが違ってくるんだぞ!?」
二人がけんかを始める最中、洋子は微笑ましそうに「仲がいいですね」とどこかズレた発言をしていた。その言葉にコントローラーを持っている大地は「じゃねーだろ」と苦笑いをする。
「洋子も覚えとけ。自分のセーブデータを消されたあかつきには兄弟ゲンカが始まるって」
「えっ、でも夏斐さんと三春さんはご兄弟じゃないでしょう?」
「……そーゆー意味で言ったワケじゃないんだけどな。オレが言いたいのはアレだ。オレもアネキや弟にセーブデータを消されたコトがあって、それが元でケンカをしたコトがあるって。だから、人から借りた、もしくは借りるゲームには気をつけろってコトよ」
思い出すはつい先日のことだ。自分もやりかけのゲームがあって、久しくそのゲームで遊ぼうと思ったときにデータが消えてしまっていたのだ。その原因を探ろうと姉や弟に訊き回った結果――。
【アネキ! 何、オレのセーブデータ消してんだよ!】
【はあ!? 消してないし! 勝手に決めつけないでくれる!?】
【や、ねーちゃん消してたじゃん。オレ見たよ】
弟の証言により、犯人判明。そこで兄弟げんかが勃発するのだが――悲しきかな。自身の姉は一枚上手だったようで、ジャーマン・スープレックスをかけられ、あえなく撃沈してしまったのだ。
そんな苦い(よくある)経験している大地は、もしも、この二人が兄弟であって、けんかをするならば、カンナが勝つだろうなという予想を立てる。彼女の場合は自身の姉とは違って口の方が強いだろう。言葉に負かされて、悔しそうにする空が目に浮かんだ。
「はあ、そうなんですね」
兄弟がいない上、テレビゲームをするという概念がほぼない洋子にとっては、あまりわからなかった。それ故に強引に納得するしかないのである。
「まーな。てか、どーせなら洋子もなんかゲームするか?」
「ええ、是非とも。何か楽しそうなものってあります?」
洋子もゲームをする、ということで大地はやろうとしていたゲームを中断した。代わりに全くのド素人である彼女にもできそうなゲームを探した。何があるだろうか。どうせならば、あとで空たちも加わってくるだろうから、四人ができそうなゲームは――。
「大地さん、これなんていかがでしょう?」
何かを見つけたらしい。洋子はとてもやりたそうな顔をしながら、一本のゲームソフトを見せびらかした。彼女が手にしているのはパッケージではなく、CDROM入れのビニールに包まれた白色をした物。そこに書かれているタイトルは『4人』である。
このゲームどこかで見覚えがあった。どこでなのかは記憶が曖昧である。自分の家でやったことのあるゲームか、と言われるとそうではない。こんな物が家にないのは流石に覚えているから。
どこだったか、と大地が腕を組んで思い出そうとしていると――。
「夏にここでやったゲームですよ。私、意外にも面白かったので、もう一度やりたいです」
その言葉に大地はすべてを思い出した。あのマイクを使って物語を進行していくゲーム『4人』を。別にそのゲームをもう一度するのは、自分にとっては構わないが、空たちはどうなのだろうか。やりたがるか? 結構あのゲームをしていて、揉めていた記憶はあるぞ? だとしても、このあやしいゲームは洋子がプレイしたことのある数少ないゲームなのだ。
一応、空たちにでも訊いて、やってみようではないか。そう決めた大地は早速、このことを二人に確認するために、けんかを止めて話をつけた。彼らは素直に承諾してくれる。ただし、けんかの止め方はもちろん、人の話を聞こうとしない空に対してジャーマン・スープレックスである。




