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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇冬の事変
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63話 目玉飛び出すほどの驚愕事実

「なっ……!?」


 思わず、空とカンナは驚愕していた。


 夢かと思ったのだ。だが、違う。これは現実なのである。それを二人は十分に承知していた。ああ、これが夢であるならば、どんなにいいのか、と。


     ◆


 十二月に入り、本格的に寒さを増してきたこの日の頃。空はカンナと一緒に下校をしていた。寒く、冷たい風が彼らに襲いかかってくる。あまりの寒さのせいなのか、くしゃみをするほどだ。


「カゼ? 気をつけなよ?」


「うん」


 ずるずると鼻水が垂れてくる。心配をしてくれているのは嬉しいのだが――その反面、恥ずかしいと思う。ちょっと、鼻をかむからこっちを見ないで。


「てゆーか。結局、桜センパイだっけ? は、もー何も言ってこないんだよね?」


「だと思うぜ。秋島センパイも何も言ってこないし、二人は楽しそうにしてるみたいだし。あんまそれ言わないがいーんじゃない?」


「そっかぁ。雪野さん、そろそろ資料を集めきったかな?」


 カンナのその言葉に、空はほんの少しばかり動揺した。忘れた頃に言い出してから。八姫農業高校での文化祭を思い出してしまったではないか。結局、彼はあのサングラスとマスクの男性にことについて、誰にも話さなかった。本来ならば、言うべきなのだが――。


――カンナの母親がなぁ。


 別に言うのは構わないが、カンナの母親の件とつながるため、言い出しにくいのである。しかも、自分はただのお隣さん。当事者でもないから口など出せるはずもない。だからと言って、そのまま放置するのもいけないことぐらいはわかっている。自分たちに危害が及ぶからだ。


「どーだろーな」


 それ故に、空は曖昧な答えしか出せなかった。


 なかなか、話を切り出せずして、二人はカンナの家の前で別れた。ここで気付く。自分の家の車庫には車がなかった。ということは、まだ母親が帰ってきていないのである。


 あとでカンナの家にでも行くか、と考えながらリュックサックの中から家の鍵を取り出した。それを開けようとするも、鍵は最初から開いていたらしい。スかした。


「え」


 それで声を漏らしてしまった。確か、今日は最後に家を出たのは自分だ。おかしい、きちんと施錠をして出たはずなのに。まさか、車はないけれども、もう母親が帰ってきているとでも? それとも、ピッキングした泥棒?


 自分の家だというのに、入ることを恐れた空は裏手に回って、物置からバットを手に取った。こういうときのためではないが、中学生時に使用していた野球部用の物を持っておいてよかったと小さく安心する。ないよりマシだからだ。だが、まだ全部が全部安心していられない。


 そっとバットを構えて、玄関の方へと戻る。もう一度、鍵が開いていることを確認して、いざ突入しよ――。


「何してんの」


 急激に後ろから声がかかった。あまりの唐突さに口から心臓が飛び出すほど。急いで後ろの方を振り返ると、そこにいたのは怪訝そうな面持ちのカンナである。


「自分チでも壊そうとしてんの?」


「脅かさないでくれ」


 カンナがこちらへと来たということは、彼女の家もまた父親が帰ってきていなかったのだろう。別にこちらの方へと来たのは構わないが、大丈夫か?


 状況が状況なため、事情を簡潔に説明した。鍵が開いているということを。


「かけ忘れたワケじゃないよね?」


「キチンとした。だから、こうしてんだよ」


「てか、行くの?」


 カンナは不安そうな表情でバットと玄関のドアを見た。


「もちろん。別にカンナんチに逃げてもいーけど、母さんが帰ってきたときとかどーすんの」


 そう言われると、そちらも危険ではある。しかし、警察を頼るというのも気が引けた。本当に自分が施錠をし忘れている可能性だってあるのだから。それに洋子曰く、彼らに通報したとしても、逃げられるがオチなのだ。目に見えているくらいならば、と考えると――。


「じゃあ、センパイでも呼ぶ?」


 カンナの言い分は賢明である。だが――。


「あのヒト、今は放課後ペナルティ受けていなかったっけ?」


 そう、大地は文化祭で一般客を巻き込んだスリッパオニを実施したのだ。それ故の反省と称して、一ヵ月以上のペナルティをさせられているのである。


「そんじゃ、冬野センパイは?」


「今日、予定があるって昨日メッセージ来たじゃん」


 空はカンナにスマートフォンの画面を見せた。そこには昨日の日付で『明日は予定が入っています。』とあるのだ。つまりは誰も頼れそうにない。自分たちでどうにかするしかないのだ。これに彼女は理解したつもりなのか「わかったよ」と納得してくれた。


「それなら、ちょっと待っててよ。わたしもなんか武器を持ってくるよ。何がいーかな?」


「来るなら家にバットある? てか、棒状のなんかがいいと思う」


「叩くため?」


「まーね」


 なるほどね、と家の物置から適当に物色して見つけた角材を持ってきた。さあ、今度こそ突入だ。


 そっと開けられる夏斐家の玄関ドア。中の雰囲気からして、誰かいるとも、いないとも取れる。それが一番の恐怖なのだ。何もわからないから。わからないというものは『恐怖』そのもの。ああ、恐ろしや。


 ゆっくり、ゆっくりと足音を立てないようにして、玄関から一番近い和室を覗き込んだ。そこには誰もいない様子。念のため、押し入れの仲も確認したが、特に変わっているところはなかった。


 次に向かい側にある洗面所へと入った。そこにある風呂場もトイレも同様に誰もいない。


 部屋の中を覗き込んで、誰もいないとわかる度に小さくため息をついていく。安心があとから襲いかかってくるからだ。


 さて、次は階段があって、その奥にリビングやキッチンがあるのだが――どちらを先に行くべきか。


「どーする?」


「先に奥から行こう」


 すりガラスのドア。そのドアを開けると――。


「帰ってきたな?」


 久しぶりに見た白衣の男がリビングにいた。彼は寛ぐようにして、ソファに腰をかけてテレビを見ているではないか。そして、その聞き覚えのある声は紛れもなく、スリッパオニの参加者であるサングラスとマスクの男性である。


「お帰り。そして、久しぶりだな『我が息子』よ」


「なっ……!?」


 男のとんでもない発言に空は口を開けて呆然とするしかなかった。

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